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 ツカサの過去を、カナタは受け止められていない。  しかし、当の本人はというと……。 「よく考えると、可愛いヘアゴムを付けていたらカナちゃんが【可愛いもの好き】だってバレちゃうよね。それは、良くないか。カナちゃんは隠しておきたいんだもんね」  カナタの髪を触りながら、ツカサの過去と比較するのもおこがましいようなことで、真剣に悩んでいた。  結局、ツカサは髪を結ぶことは諦めたらしい。 「仕方ない、髪を結ぶのは諦めよう。このヘアゴムはカナちゃんにあげるね」  どことなくスッキリとした表情を浮かべながら、ツカサは持っていたヘアゴムをカナタに手渡した。  カナタはヘアゴムを受け取るよりも先に、ツカサを振り返る。 「無理、していませんか?」  カナタに心配をかけないようにと、楽観的な姿勢を演じているのではないか。  そう危惧したカナタは、そういった意味合いで問いかけた。  しかし、カナタの問い掛けはどういうわけかツカサには正しく伝わっていない様子だ。 「そりゃ、確かに髪を結んだカナちゃんを見られないのは残念だけど──」 「──そうじゃなくて!」 「うわっ! えっ、なにっ? いきなり大きな声出して、ビックリしたぁ」  ツカサは数回、目を瞬かせる。その表情は、本気でカナタの言っていることを理解できていない様子だ。  けれど、カナタはどんな言葉をどういった趣旨で伝えていいのかが分からない。 「……っ」  開いた口を、やるせなく閉じる。  カナタの様子を見て、ツカサはなにかに気付いたらしい。 「……あぁ、なるほど! ごめんね、話が脱線しちゃったよね!」  ツカサはニコリと笑みを浮かべて、カナタの顔を覗き込む。  そして……。 「──ところで……マスターにお嫁さんがいたら、カナちゃんはなにか困ることがあるのかな?」  てんで的外れなことを、笑みを一切浮かべていない眼差しを向けたまま、ツカサは口にした。  慌てて、カナタは否定の言葉を口にする。 「そんなつもりで訊いたわけじゃないですっ! ただ、マスターさんに奥さんがいるって知らなかったから驚いてしまって……っ。……だけど、あのっ、ツカサさん──」 「そうだよねっ。カナちゃんには俺だけだもんねっ」 「んむ、っ!」  にこやかに微笑んだツカサが、即座にカナタの口を口で塞いだ。  そのまま唇を離すと、ツカサは満足そうに笑う。 「カナちゃんがマスターに熱視線を送りでもしたら、その目玉をえぐり取るからね。それで、えぐり取ったその目玉を俺の部屋に飾って、カナちゃんにはずっとず~っと俺だけを見てもらいたいなぁ。……あれっ? 自分で言っておいてなんだけど、結構いいアイディアかも。そんな日々を過ごせるなんて、想像するだけで幸せだよっ!」 「っ!」 「モチロン、カナちゃんは浮気なんてしないもんね? 俺はカナちゃんを信じているから、目玉を詰めるビンは用意しないよ。信頼の証だねっ」  カナタが他の誰かを好きにならなければ、ツカサは狂気じみた言動を取らない。  そう知ってしまったカナタは、どうすることもできずにただただ脱力する。 「……マスターさんって、オレたちの関係……知って、いるのでしょうか」 「さぁ、どうだろうねぇ? 気にしたこともなかったや。……今度、一緒に訊いてみようか?」  そんなことをしては、自ら暴露をするようなものだ。  カナタは慌てて、首を横に振った。

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