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4 : 14 微*
ツカサの手により、カナタは店内の壁に抑え込まれた。
ツカサに背を向けた状態のカナタは、震える声で懇願する。
「こんな場所で、恥ずかしい、です……っ」
今までカナタは、ベッドの上でしかツカサに抱かれたことがない。
──それが今は、立ちながらとなり。
──しかも、いつも仕事をしている店内で求められたのだ。
カナタが耳まで赤くなりながらも、許しを乞うような目でツカサを振り返るのは、当然だろう。
ツカサはカナタの尻を布越しに撫でながら、耳朶に唇を寄せる。
「それじゃあ、やめる? 俺は別にそれでもいいけど」
未だに、ツカサの機嫌は悪い。
……カナタが日中、マスターのことをほんの少し褒めただけ。
それだけなのに、ツカサは底知れぬ狂気を感じさせるような笑みを浮かべているのだ。
「そうだよ、そうだよね。これは、仕方ないよ。だって、カナちゃんは俺じゃなくてマスターの方が好きなんだよね? だったら、こんなところでこんなこと、できるはずないもんね?」
どこか自嘲気味に笑うツカサを見て、カナタは体ごと振り返ろうとする。
「ちが……っ! オレは、マスターさんじゃなくて──」
「──だったら、つべこべ言わずに『ツカサさんの方が好きです』って今すぐ証明してよ」
ぐり、と。
硬いものが、カナタの尻に押し付けられた。
「言ってよ、カナちゃん。カナちゃんの口で、俺を欲しがってよ。『抱いてください』って。『メチャクチャに犯してください』って、今すぐ言ってよ。じゃないと俺、あのピアノを壊すよ? その後で、丁寧にカナちゃんの両耳をそぎ落とすよ? それでいいの? それが、カナちゃんが欲しがる俺との未来なの?」
カナタはすぐに、体ごとツカサへ向き直ることを諦める。
『楽器はいいぞ、カナタ。自分自身と向き合えて、自分をより好きになれる』
──ピアノはマスターにとって、とても大切な物。
『ツカサはのう、しなくてもいい苦労を色々と強いられてきたのじゃよ。見てくれだけじゃなく、中身を見てもらいたいと願っておったのに、誰もその小さな願いを叶えてはくれんかった』
『じゃからワシは、ツカサにピアノを教えたんじゃ』
──そしてそれと同時に、ツカサにとっても思い出の品なのだ。
ツカサは他者に対して、とても冷酷な人間かもしれない。
それでも確かに、ツカサはマスターとその妻に対して、心を許しているのだ。
たとえどれだけツカサ自身が否定したとしても、これは抗いようのない事実で、本心のはず。
「ツカサ、さん……っ」
その気持ちを、思い出を……。
ツカサ自身の手で、壊してほしくない。
カナタはツカサを振り返り、涙で濡れたその目を向ける。
「……くだ、さい……っ」
「なに? 聞こえないよ?」
「……っ。抱いて、ください……っ。オレを、メチャクチャに……犯して、ください……っ」
カナタは震える手で、下穿きを下ろす。
ズボンと下着をまとめて膝まで下ろした後、カナタはもう一度ツカサを振り返った。
すると、冷ややかな目をしたツカサと、視線が重なる。
「そんなに、カナちゃんはマスターが大切なんだね」
そう呟くと、おもむろにツカサはカナタの手を掴んだ。
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