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 力任せに掴まれた手が、そのままカナタの口元へと強引に運ばれる。 「ん、ぅ……っ!」 「指、自分で舐めて濡らして。それで、その指でお尻を弄ってよ。自分で広げて、俺のを受け入れる準備をして」  薄く開かれた口に、カナタの指が強引にねじこまれる。  カナタはくぐもった声を出すが、ツカサの力には勝てそうにない。  そしてそれ以前に、ツカサを拒むことはできなかった。 「は、んむ……う、っ」  カナタは涙目になりながら、自分の指を懸命に舐め始める。  ぴちゃぴちゃと唾液の音が響き、自らを辱めることになったとしても。  カナタは、舌を止めるわけにはいかないのだ。  そうしているとすぐに、今度はツカサの手によって口から指を引き抜かれる。  ツカサは先ほど言っていた通りに、カナタの手をカナタの臀部へと誘導した。 「ホラ。指、自分で挿れて」 「ツカサ、さん……っ」 「早く」  おずおずと、カナタは自らの秘所に自らの指を這わせる。  何度もツカサに弄ばれはしたが、カナタ自身はただの一度も自分で後孔を弄ったことはない。  羞恥心と、恐怖心。  それでもカナタには、優しい選択肢なんて用意されていなかった。 「ん、う……ふ、ぅ……っ」  そっと、秘所に指先をこすりつける。  そのままカナタは、自らの後孔に指先を押し付けていく。  ゆっくりと指を挿入していくカナタを見下ろしながら、ツカサは不機嫌極まりない声色で笑った。 「あははっ。カナちゃん、ここ職場だよ? いいの? 両親が探してくれた職場で、こんな恥ずかしいことしちゃってさ?」 「あ、ん……っ!」 「今の状況、ちゃんと分かっているよねぇ? カナちゃんは職場で、自分のお尻を弄っている。はしたなく腰をくねらせて、自分で自分の気持ちいいところを弄っているんだ」  煽るようなセリフに、カナタの羞恥心はどんどんと増していく。  それでも、カナタは指の動きを止めなかった。 「俺の母親とは全く違う、あんなに優しそうな女性だったのにね。カナちゃんはその優しい愛情を、淫らに切り捨てている。この光景をご家族が見たら、なんて言うだろうね? 涙を流して悲しむ? それとも、俺の母親みたいに息子へ欲情するのかな?」  指の本数を増やし、ツカサに見られながら、自らの意思で秘所を暴く。  くちゅりと、いやらしい音が店内に響いても。  それでもツカサはカナタを解放せず、ただただその痴態を見下ろしている。 「指、二本じゃ足りないでしょ? ホラ、焦らさないで挿れてあげなよ」 「やっ、んぁ、っ」 「ちゃんと広げないと、後々大変だろうしさ」  ツカサに言われるがまま、カナタは後孔に、自身の指を三本挿入した。  今まで抱いたことのない不思議な感覚に、カナタの思考は荒らされていく。 「う、あ、ぁ……っ」  こんなこと、カナタの本意ではない。  それでもやらなくては、カナタはツカサを……。 「必死だね、カナちゃん。そんなに、あのピアノが大切なの?」  頷くことも、首を振ることもできない。  カナタは【ピアノ】を守りたいわけではなかった。  ましてや、根底にあるのは自身の両耳を守るという考えでもない。  ──ただ、カナタはツカサの思い出を。  ──ツカサ自身から、ツカサを守りたかった。

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