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懸命に、カナタは後孔を弄る。
悲しいことに、ツカサによって慣らされた内側は、こんな状況でも微弱な快楽を探していた。
「は、っ。あ、ん……ぅ、んぅ、っ」
不慣れながらも、カナタは後孔に異物感を馴染ませていく。
それから、カナタはゆっくりと指を引き抜いた。
「もういいの? それなら、言うことがあるんじゃない?」
一連の流れを見ていたツカサは、冷たい声色で訊ねる。
カナタは濡れた瞳で、背後に立つツカサを振り返った。
「ツカサさんの……挿れて、ください……っ」
震える手で、カナタはツカサの下半身を撫でる。
そのままゆっくりと、カナタはズボンのチャックを引き下げた。
下着越しにある、ツカサの熱。
こんな状況でも、ツカサはカナタに欲情してくれているのだと。
そう思うとなぜだか、胸の奥が熱くなった。
「いやに積極的だね。意外とこういうシチュエーション、嫌いじゃない感じ?」
「そういう、わけじゃ……っ」
「あぁ、違うか」
──瞬間。
「──カナちゃんはピアノが大切なだけだもんね」
「──ぅあっ!」
根元まで、ツカサの逸物が後孔に差し込まれた。
突然のことに、カナタは息を詰まらせる。
そうするとツカサが突然、カナタの髪を乱暴な手つきで掴んだ。
「いつものカナちゃんなら、絶対に嫌がるのに。ねぇ、どうして? どうしてカナちゃんは、あのピアノをそこまでして守りたいと思うの?」
いくら指で広げたとは言え、そもそも後孔は性交に使う器官ではない。
「うっ、あ……っ! ひっ、うぅ……っ!」
指では届かないようなところを無理矢理こじ開けられれば、カナタが悲痛な呻き声を漏らすのは当然だ。
苦しむカナタの髪を掴んだまま、ツカサは低い声で訊ねる。
「教えてよ、カナちゃん。どうして? どうしてカナちゃんは、自分よりもあのピアノを選ぶの?」
ツカサの逸物が、何度も何度もカナタの後孔を差し穿つ。
「温かい愛情を蹴散らして、したくもないことを自らの意思で選んで、らしくもないことを進んで実行している。それはどうして? なにがカナちゃんをこうまで突き動かしているの?」
それでもカナタは、ツカサを拒絶しない。
そのうえで、カナタはツカサの問いに答えた。
「──あのピアノは、ツカサさんにとって……大切な物、だから……っ」
不意に。
「……え、っ?」
髪を乱暴に掴んでいたツカサの指が、ピクリと跳ねた。
それと、ほぼ同時。
「ツカサさんを、助けてくれた物だから……っ。だから、ツカサさんが壊すのは……絶対に、いやです……っ」
ボロボロと大粒の涙が、カナタの頬を伝っていった。
カナタはツカサに犯されたまま、目元を乱暴に袖で拭い始める。
「オレのこと、怒って嫌いになるのは、我慢します……っ。でも、だけど……ツカサさんの思い出だけは、嫌いにならないで……っ。ツカサさんの大切な物を、オレなんかのせいで、嫌いにならないでください……っ」
カナタは、ツカサに肯定されたことが嬉しかった。
男にしては変わった趣味嗜好も、内気で弱くて情けないところも。
ツカサは全て、カナタのことを受け入れてくれた。
『世界中がカナちゃんを否定したって、俺はカナちゃんの味方なのになぁ』
味方でいてくれると、ツカサは確かに言ってくれたのだ。
そんな優しいツカサを、カナタも肯定したいと思った。
──ならば今度は、カナタの番だ。
ツカサが自らを否定しようとしているのならば、カナタが全力で肯定する。
絶対にツカサを否定したくないと、カナタは思ったのだ。
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