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 再度寝間着に着替えたカナタは、ベッドの上でツカサに抱き締められていた。 「明日のデート、凄く楽しみだねっ」  弾んだ声でそう言うツカサは、満面の笑みだ。  明かりを消した部屋でもハッキリと見える距離で、ツカサは笑っている。 「楽しみすぎて、結構マジで眠れるか不安だよ~。……カナちゃんは? 眠れそう?」 「はい、たぶん。寝ちゃうと、思います」 「そっか~、なんでだろ──あっ、射精して疲れちゃったかな?」 「そんっ、そっ、そんなこと、わざわざ言わないでください……っ」  倦怠感にほどよく包まれたカナタとは対照的に、ツカサは随分と元気そうだ。  今晩、ツカサは本当に眠れるのか。カナタがそう、思わず心配してしまうほどに。  カナタはツカサの胸に埋めていた顔を、そっと上げた。 「明日、万全の状態でデートしたいって言ってくれたじゃないですか。それなのに寝不足なのは、良くないと思います」 「それってもしかして、俺がカナちゃんのお尻に挿れなかったから拗ねているってこと?」 「なんでそうなるんですかっ」 「自分だけ我慢を強いられた~、みたいな?」  機嫌が悪いツカサは手に負えないが、上機嫌すぎても手に余る。  薄々分かっていたことだが、カナタは今、改めてそう確信した。 「心配しなくても大丈夫だよ」  ──それは、今晩ちゃんと眠るという意味だろうか。  言葉を区切ったツカサの顔を、カナタは見つめる。  すると……。 「デートの後、セックスするって約束したじゃない」  一瞬、カナタはなんのことかと思案する。  そこで、カナタは思い出す。 『デートが終わった後も、俺とセックスするって約束して?』  確かにそう、ツカサは一ヵ月前に言っていた。 『わ、わわっ、分かりました……っ!』  そしてなし崩し的に、カナタはツカサと約束をしたのだ。  カナタは顔を赤くして、なにも言えずにツカサを見つめ続ける。  すると、ツカサが嬉しそうに口角を上げた。 「ほとんど毎日シてるのに、一日できないだけであんなに悲しむなんて……カナちゃんって本当にエッチな子だよねぇ?」 「っ!」 「せっかく外に出るし、明日はホテルでセックスする?」 「ツっ、ツカサさんの馬鹿っ!」  そう言い、カナタはツカサの胸に顔を埋める。 「あははっ! カナちゃんか~わいっ!」  頭上からは、楽し気なツカサの声が聞こえた。  カナタが拗ねていることに気付いているのか、いないのか。 「ねぇ、カナちゃん。カナちゃんも俺のこと、ギュってしてくれない?」  ツカサはそう言い、カナタの体を強く抱き締めた。 「カナちゃんがギュってしてくれたら、落ち着いて眠れそう。だから、ね? カナちゃん、お願い」  ──この人は、なんて狡い人なのだろう。  そんな文句ひとつ、口にはできないまま。 「……おやすみなさい、ツカサさん」  言われるがまま、カナタはツカサを抱き締めた。

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