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肌を隠し、女物の服に身を包んだところで、カナタが男だという事実は変わらない。
「オレ、ヤッパリ恥ずかしいです……っ」
他人から女装姿の評価をされたことがないカナタは、自分が【女装をしている男】と認識されることが、なによりも恥ずかしかった。
たとえそれが、いつもカナタのことを全肯定してくれるツカサだとしても、だ。
──もしかすると、今回ばかりは駄目かもしれない。
──もしも、ツカサから否定されたら……。
そんな不安が、カナタの胸をドロドロと覆い始める。
けれど、目の間に立つ相手はツカサだけ。
そしてやはり、ツカサにとっては……。
「恥ずかしがるカナちゃんは、いつも以上に可愛いね。女の子の服を着ているからかな?」
たとえカナタが、どんな服を着ていても。
「ヤッパリ、カナちゃんにはズボンと同じくらいスカートも似合うよ。うん、可愛いっ」
ツカサは、なにも変わらない。
普段と変わらず、カナタに向けるのは『可愛い』という評価だった。
出会った時から変わらず、ツカサはカナタが欲する言葉を与える。
「凄く可愛いよ、カナちゃん。だから、今日はその服でデートしてほしいな」
いつも、いつだって。
ツカサは簡単に、カナタを喜ばせてしまうのだ。
カナタは持っていた着替えで前を隠したまま、ツカサに顔を向ける。
「そ、う……でしょうか? オレ、変じゃないですか……っ?」
「変? どこが? メチャクチャ可愛いよ?」
頭のてっぺんから爪先まで。
ツカサはジッと、カナタのことを見つめた。
そして再度、笑みを浮かべる。
「こんなに可愛いカナちゃんを、今日は俺が独占できるなんて……俺、メチャクチャ嬉しいよ」
「ツカサさん……っ」
「あはっ、どうしようカナちゃん。前に、俺がカナちゃんを幸せにするって言ったのに、俺の方が断然幸せになってるかもしれないや」
真っ直ぐと向けられる、賛辞の言葉。
ツカサに肯定されると、カナタは……。
「ツカサさんが、喜んでくれるなら。そう、言ってくれるのなら。……いいの、かな……っ?」
カナタは、満更でもない気持ちになってしまうのだった。
カナタが持っていた着替えを、ツカサはそっと奪い取る。
「うん、大丈夫。カナちゃんは可愛いから」
「一緒に並んで、恥ずかしくないですか?」
「恥ずかしくなんてないよ! メチャクチャ可愛いもん! むしろ、誇らしいくらいだし!」
「それは、さすがに言いすぎな気がしますけど……」
思わず、カナタは口角を上げてしまう。
「ありがとうございます、ツカサさん。……オレ、この服が一番好きなんです。可愛くて、嬉しい気持ちになるんです……っ」
「じゃあ、一番気合いが入った服ってこと? だったらなおさら嬉しいよっ!」
内側に狂気を内包しているとは思えないほど、無邪気な笑み。
いつだって、カナタはツカサの言葉に救われてきた。
ツカサの笑顔に、カナタは温かい気持ちになっていたのだ。
すると突然、ツカサがなにかを思い出したように手を叩いた。
「あっ、そうだ、カナちゃん! いきなりだけど、カナちゃんにプレゼントあげるね」
「オレにプレゼント、ですか?」
「うん、そっ。じっとしていてね?」
戸惑いつつも、カナタは素直に制止する。
固まったカナタに近寄り、ツカサは手を伸ばした。
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