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雑誌に載っていたカフェに到着した二人は、すぐに店内にある席へと腰を下ろした。
「カナちゃん、カナちゃん。ホラ、ココ見て? 前に俺が言ってた可愛いパンケーキとパフェだよ~」
「あっ、本当だっ。わぁ、メニュー表の写真だけでも可愛いっ」
「実物が見られるの、楽しみだね?」
「はいっ」
メニュー表を見ながら、カナタは静かにはしゃいだ。
ツカサはすぐさま店員にオーダーをし、正面に座るカナタへと視線を戻す。
「もしかしたら、マスターは怒るかもしれないね? あの人のことだし、きっと『ライバル店に行くんじゃない!』とか怒鳴りそう」
「あははっ。確かに、そうかもしれませんね。……あれ? もしかして今日のことって、マスターさんには内緒にした方がいいのでしょうか?」
「ん~? マスターには『敵情視察』とでも言っておけば許されないかな?」
水の注がれたグラスを眺めて、ツカサは眉を寄せる。
「あ~……でも、俺が言っても許してくれないかも。マスター、俺には当たり強いんだよなぁ」
「仲良しな証拠じゃないですか?」
「冗談。俺にはカナちゃんだけだよ。他人から受ける【いい評価】があるのなら、それも全部カナちゃんからがいい」
「あはは……っ」
話していると、パンケーキやパフェとは別に頼んでいたラテアートが運ばれてきた。
「わっ、可愛いっ! ウサギだっ」
「俺のはクマだ~。飲むのがもったいないね?」
「あっ、そっか。飲んだら形、崩れちゃいますよね……」
露骨に落ち込んだカナタを眺めて、ツカサは小さく微笑む。
すると、ツカサは座ったまま小さく身じろいだ。
「大丈夫だよ、カナちゃん。俺がバッチリ写真に残してあげるからさ」
「すみません、ありがとうございます。……でも、崩れちゃうのはちょっと可哀想です……」
「弱肉強食? 自然の摂理? 食物連鎖? みたいな? それもこのウサギとクマの運命ってやつだよ。仕方ないって」
「あんまり可愛くない言葉ですね……」
ツカサは取り出したスマートフォンで、ラテアートの写真を撮る。
ちなみにカナタは、スマートフォンはおろか写真を撮れるような物を持っていない。
なので、カナタはツカサのように写真を撮ることができないのだ。
当然そのことを理解しているツカサは、カナタが頼んだラテアートの写真も撮っている。抜かりはなかった。
「カ~ナちゃん。こっち向いて?」
「はい? ……えっ」
カシャッ、と。短くシャッター音。
反射的に顔を上げてしまったカナタは、自分が【写真を撮るために呼ばれた】と、遅れて気付く。
「えっ、今、撮りました? やっ、やめてくださいっ。消してください、ツカサさん!」
「ヤダよ~。もう俺の部屋にあるパソコンにもデータ送っちゃった~っ」
「うっ、酷いです……っ」
カナタは赤面しながら、ラテアートをジッと見つめた。
そしてふと、これまでのやり取りを思い出す。
ツカサと一緒にいると、凄く楽しい。素直に、心の底からそう思える。
……けれど、このフワフワした気持ちが【恋愛としての好き】なのか。それはまだ、よく分からない。
ツカサと離れているときも、カナタはずっと考えていた。
今の自分は、ツカサと【形だけの】恋人なのだ、と。
しかし、そこに【恋情】はあるのか。
それだけが、カナタにとって気掛かりだった。
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