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 カナタは、ツカサのことは少しも理解できていなかった。  脅されて、恐怖心を抱いて。  それらが少しずつ解消されて、どこにでもいる恋人同士になった。  その間もずっと、カナタはツカサを信じていなかったというのに。 「カナちゃん? どうかした?」  ツカサは初めから、ずっと変わらない。  ──ツカサはいつだって、カナタのことを認めてくれていたのだ。 「いえ、あの……っ。なん、だろう……オレ、その……っ?」  指先が、小さく震え始めて。  ジワリと、頬に熱が溜まる。  目の奥が、妙に熱くなった気がした。  ──嬉しい。  ──幸せ。  そんな、簡単で単調すぎる愚直な言葉が、カナタの胸にジワジワと広がっていく。  幼稚な言葉が頭の中に群れを成して集まる中、カナタはようやく見つける。  一際大きく、存在を主張する言葉を。  ──ツカサのことが、好き。  ──大好きだ、と。  我ながら、単純すぎるとカナタは思う。  ──ツカサの見た目が、今まで出会った誰よりも整っているから惹かれたのか。  その問いに対して、カナタはハッキリと『ノー』を言える。  カナタは決して、同性愛者というわけではないからだ。  ──それならば、ツカサがカナタにとって、欲しい言葉をくれた最初の人だから好きになったのか。  その問いに対しても、カナタはハッキリ『いいえ』と答えられるだろう。  それが理由ならば、もっと早い段階で恋を自覚している。  ならば、なにが理由なのか。  なればこそ、どうしてそう思ったのかと。  そんな問いに対する答えを、カナタはようやく。  ……ようやく、見つけたのだ。  ──ありのままのカナタを知って、ずっとそばにいてくれた。  ──カナタの本質を見てくれたうえで、それでもなお『カナタはカナタだ』と言ってくれたのは、ツカサだけ。  カナタは、自分に自信があったわけではない。  むしろ自信なんて、皆無と同然なほど持ち合わせていなかった。  だからこそ、カナタは【可愛いものを好む自分】と【その延長線で女装じみた真似までしてしまう自分】を、否定し続けていたのだ。  カナタ自身が、カナタを好きになろうとしなかった。  本人すらも否定し、嫌悪し、疎んだ【カナタ・カガミ】という男を、ツカサだけは別視点から捉えたのだ。 『人と違うことがダメなんじゃない。人と違う自分に胸を張れない自分が、一番ダメだよ』  それだけではなく、ツカサは【カナタ・カガミを否定するカナタ・カガミ】すらも、抱擁してくれた。 『世界中がカナちゃんを否定したって、俺はカナちゃんの味方なのになぁ』  受け止め、肯定し、そばにいるよう求めたのだ。  不意に、ツカサがカナタのことを心配そうに見つめる。 「カナちゃん? 急に黙り込んで、どうしたの? 疲れちゃった?」  芽生えて、咲き誇ったばかりの恋情。  当然そんなことに気付いていないツカサは、カナタのことを至極心配そうに眺めた。  そこでふと、カナタは考える。  ──ツカサの顔は、こんなにも格好良かったか。  ──ツカサの声は、こんなにも胸がときめくような音だったのか、と。

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