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今のカナタは、全身をタオルで隠している。
その状態のまま、ツカサの胸を押し返しているのだ。
部屋に入った途端、ツカサは【ある物】を用意した。
そして用意された物に着替えるよう、ツカサはカナタに強要したのだ。
ツカサが用意した物は、カナタが言う通り【コスプレ衣装】だった。
……もっと言うのなら、コスプレ衣装の中でも【バニーガール服】というもの。
つまるところ……カナタが嫌がるのも、無理はない服だった。
しかしカナタとは対照的に、主犯であるツカサは楽し気だ。
「だってさぁ、ラテアートのウサギとカナちゃんを交互に見ていたら、ピーンときちゃったんだよねぇ。『カナちゃんがウサギになったら絶対可愛いな~』って! あっ、ホラ。付け耳忘れてるよ?」
飄々とした態度でウサギの付け耳を渡すツカサを、カナタは全力で拒絶する。
「要りませんっ! それに、男がこんな服……にっ、似合うわけないじゃないですかっ!」
「でも、着替えてはくれたんだよね? タオルの下はバニーなカナちゃんなんだよね? じゃあ、恥ずかしがらずに見せてよ~? カナちゃんを見ているのは俺だけなんだから、別にいいよね? ねっ?」
「嫌ですっ!」
好意を自覚したばかりだということもあり、カナタはツカサの要望を叶えようとした。
だからこそ、恥じらいつつもツカサから隠れるように浴室で着替えたのだ。
しかし、着替え終わって部屋に戻ろうとした時に、カナタは我に返った。
カナタは女装する際、極力肌を出さないようにしている。そこには、確固たる信念すらあった。
だが……どう足掻いても、今着ている衣装は肌が出てしまう。
カナタにとって、そんな中途半端な姿を誰かに──好きな相手に晒したくないのだ。
攻防戦を繰り広げていると、不意に。
「……そっか。ヤッパリ、ムリヤリこんなことするのは良くないよね」
ツカサが突然、身を引いたのだ。
ベッドにへたり込んだカナタから、ツカサはそっと離れる。
「せっかく、カナちゃんが俺のことを怖がらないでくれているのに。こんな強引なことをしちゃったら、またカナちゃんを怯えさせちゃうかもしれないよね。……ごめんね、カナちゃん。俺、浮かれすぎてた」
「えっ、あ、え……っ?」
「俺、目を閉じるよ! だから、もう一回着替えてきて大丈夫!」
宣言通り、ツカサはギュッと目を閉じた。
突然手のひらを返したツカサの反応に、カナタは戸惑い始める。
「オレ……この服から、着替えていいんですか?」
訊ねると、ツカサはコクリと頷く。
それはカナタにとって、願ったり叶ったりな状況だ。
……だというのに。
「……っ」
カナタはなぜか、ベッドから立ち上がれなかった。
目を閉じて座っているツカサに、カナタは視線を向ける。
しっかりと、ツカサは目を閉じていた。
やり方はいつだって強引だが、ツカサはカナタに対して誠実だ。
その証拠に、今はカナタを絆すためではなく本気で反省し、全力で目を閉じているのだから。
そんな姿にも、胸を打たれてしまう。
──なんて、恋とは厄介なのか。
そんなことを考えたところで、カナタはもう、引き返せはしないが。
「ツカサさん。目を、開けてくれますか?」
「でも、カナちゃんは──」
「大丈夫、ですから。……オレの方を、見てください」
ゆっくりと、ツカサが目を開く。
そして──。
「──わっ、可愛い!」
──ツカサは、表情を輝かせた。
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