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 ツカサの上に跨り、カナタはツカサの逸物に尻を擦り付けた。 「は、あ……っ」  隆起したツカサの逸物を、カナタは控えめな手つきで握る。 「カナちゃんに俺のを直接触られるのって、意外と初めてだよね」 「そう、ですね……っ」 「ちょっとドキドキするかも」  カナタは顔を赤くしたまま、逸物の先端に後孔を触れさせた。  そのまま、カナタはゆっくりと腰を落としていく。 「あ、ぁあ……はっ、んっ!」  自らの動きによって、ツカサに犯されていく感覚。  好きな人が、カナタの意思によってひとつとなってくれる。  そう考えるだけで、カナタは冷静さを失っていった。 「ぁんっ、んっ、あっ!」  自ら懸命に腰を振り、ツカサに快楽を与えようと尽力する。  ──ツカサに、感じてもらいたい。  ──ツカサの熱が、欲しい。  揺れるウサ耳を眺めながら、ツカサはカナタの腰に手を添えた。 「野ウサギなカナちゃん、すっごくエッチ……ッ」  すると、カナタはフルフルと首を横に振る。 「オレ、ちが……野ウサギじゃ、ないです……っ」  手を伸ばし、カナタはツカサが着ている服の裾を握った。  縋るように伸ばした手に、カナタは力を籠める。 「オレ、野良じゃない……っ! オレは、あっ、んっ! ツカサさん、の……ツカサさんのもの、だからぁ……っ!」  そのまま、カナタは不器用なキスをツカサへ贈った。  キスと言うよりも、まるで唇をぶつけるかのような不慣れさ。  そんな不器用なカナタの言動が、ツカサの心に火を点けた。 「あぁ、もう! カナちゃん可愛すぎるって!」 「ふあっ、あぁ、っ!」 「カナちゃん、言って? 俺のことが好きって言ってよ。……ねぇ、お願い」  しっかりと見つめ合い、カナタは何度も頷く。 「好き、です……っ! 大好き、です、っ! ツカサさん、大好き……っ!」  ──その瞬間。 「ありがとう、カナちゃん。凄く嬉しいよ」  ──カナタは、気付いてしまった。  体は、どうしようもないほど熱くなっている。  それなのに、頭の片隅で酷く冷酷な自分がいた。  ──どうして。  ──どうして今、気付いてしまったのか。  最初に入店したカフェで、カナタが抱いた違和感の正体。  カナタは、気付いてしまったのだ。 「可愛いね、カナちゃん……っ」  ──カナタはただの一度も、ツカサから『好き』と言ってもらったことがなかったのだ、と。  いつも贈られる『可愛い』という言葉。それはカナタにとって、当然喜ばしい言葉だった。  しかし、何度ツカサから好意を求められても。  どれだけツカサの要望に応えても、ツカサからの返礼はいつも同じ。 「カナちゃん、ごめん……ッ。ナカに、出すね……ッ?」  余裕無さげなツカサの声に、カナタはなにも返せない。  それでも体の奥にドクリと熱を吐き出されると、まるでツカサへ呼応するように、カナタの体も絶頂を迎えた。 「んぁ、あっ、はぁ……あぁ、っ!」  互いに荒い呼吸を吐きながらも、カナタの心はここにあらずな状態となる。  ──『好き』という言葉を、言われたことがない。  そう気付いた、その瞬間。  重苦しい鉛のように痛烈な【事実】が、カナタの胸を押し潰そうとした。  どれだけ肌を重ねても、決してひとつにはなれない。  体で愛し合ったとしても、そこには言葉がなかった。  些細な問題だと、ツカサは言うかもしれない。  それでもカナタは、どうしても……。 「ツカサ、さん……っ」  その事実を、受け止めきれなかった。 5章【そんなに好きにさせないで】 了

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