92 / 289
6 : 6
リンの問いに、カナタはふたつの感情を抱いた。
──ひとつは、羞恥。
そこまで露骨に、カナタからはツカサへの気持ちが露呈していたのか。
分かりやすすぎる態度を取っていたのかと、カナタは自分が恥ずかしくなったのだ。
──もうひとつは、恐怖。
どれだけカナタがツカサを愛していても、二人は男同士だ。
カナタは男でありながら、可愛いものが好き。
そのことを、自ら誰かに打ち明けたことはない。
それは、なぜか。
──【異端】だと思われることを、恐れたから。
ならば【同性愛者】という異端も同様に、カナタは第三者に知られたくなかったのだ。
赤くなることも、青くなることもできない。
カナタは言葉を失くし、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。
しかしなにを持ってなのか、対するリンは笑顔のままだ。
「その無言は、肯定?」
慌てて、カナタは否定の言葉を紡ごうとする。
するとリンが、手のひらをカナタへ向けた。
「あっ、ストップ! 誤解のないように言っておくけど、脅しとかじゃないからね! 悪い意味の質問じゃないから!」
「えっ?」
リンの真意が分からず、カナタは情けない声を上げることしかできない。
カナタを制するように手を伸ばしたまま、リンはニンマリと笑う。
「大丈夫だよ、カナタ君! 僕は【腐男子】ってやつだから!」
突然の告白に、カナタは眉を寄せた。
「【ふだんし】って、なに?」
「男同士の恋愛が大好物なオタクのこと!」
「へぇ、そうなん──えっ、れっ、恋愛っ?」
どうやらリンは、ほとんど確信を持ってカナタへ質問を投げかけたらしい。
どうして、カナタがツカサに思いを寄せているとバレてしまったのか。
カナタは赤面しつつ、動揺を露わにした。
しかし、カナタのそんな反応すらリンにとっては【ご褒美】らしい。
「ここで働けて良かった~っ!」
レンは突然拝むような姿勢を取り、そんなことを呟いたのだ。
感動をしているリンへ、カナタは顔を赤くしたまま、訝しむような目を向ける。
「えっと、リン君。リン君はそれを知って、どうするの?」
今さらなにを言っても、誤魔化すことはできない。
ならばカナタが気にすべきことは、今後のことだ。
カナタのもっともすぎる問いに、リンは相変わらず笑みを浮かべたままサラリと答える。
「特にどうもしないよ?」
「じゃあ、なんで訊いてきたの?」
「そうだったらいいな~って思ったから~っ!」
どことなくあどけない声で答えた後に、リンは胸を張った。
「こう見えて僕、友達の恋愛相談には多く乗ってきた方なんだ! 男同士って、色々大変でしょ? だから、僕で良かったらなんでも話してよ!」
「……ツカサさんに言ったり、誰かに言いふらしたりしない?」
「しないよ! 僕のことは【人の恋バナが大好きな、お節介系恋愛オタク】だと思ってくれれば大体合ってるから、ぜひぜひそう思ってよ~っ!」
それはそれで、どうにも信用するには足らない称号だ。
……しかし、今のカナタにとっては渡りに船だった。
ツカサへの気持ちを、自覚したばかり。
ツカサの気持ちがカナタの抱く気持ちと同じなのか、気にはなる。
けれど、確認するだけの勇気はない。
「リン君の言う通り、オレは……ツカサさんが、好きだよ」
図らずもタイムリーに出現した救世主に、カナタは素直な気持ちを口にした。
ともだちにシェアしよう!