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 リンの問いに、カナタはふたつの感情を抱いた。  ──ひとつは、羞恥。  そこまで露骨に、カナタからはツカサへの気持ちが露呈していたのか。  分かりやすすぎる態度を取っていたのかと、カナタは自分が恥ずかしくなったのだ。  ──もうひとつは、恐怖。  どれだけカナタがツカサを愛していても、二人は男同士だ。  カナタは男でありながら、可愛いものが好き。  そのことを、自ら誰かに打ち明けたことはない。  それは、なぜか。  ──【異端】だと思われることを、恐れたから。  ならば【同性愛者】という異端も同様に、カナタは第三者に知られたくなかったのだ。  赤くなることも、青くなることもできない。  カナタは言葉を失くし、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。  しかしなにを持ってなのか、対するリンは笑顔のままだ。 「その無言は、肯定?」  慌てて、カナタは否定の言葉を紡ごうとする。  するとリンが、手のひらをカナタへ向けた。 「あっ、ストップ! 誤解のないように言っておくけど、脅しとかじゃないからね! 悪い意味の質問じゃないから!」 「えっ?」  リンの真意が分からず、カナタは情けない声を上げることしかできない。  カナタを制するように手を伸ばしたまま、リンはニンマリと笑う。 「大丈夫だよ、カナタ君! 僕は【腐男子】ってやつだから!」  突然の告白に、カナタは眉を寄せた。 「【ふだんし】って、なに?」 「男同士の恋愛が大好物なオタクのこと!」 「へぇ、そうなん──えっ、れっ、恋愛っ?」  どうやらリンは、ほとんど確信を持ってカナタへ質問を投げかけたらしい。  どうして、カナタがツカサに思いを寄せているとバレてしまったのか。  カナタは赤面しつつ、動揺を露わにした。  しかし、カナタのそんな反応すらリンにとっては【ご褒美】らしい。 「ここで働けて良かった~っ!」  レンは突然拝むような姿勢を取り、そんなことを呟いたのだ。  感動をしているリンへ、カナタは顔を赤くしたまま、訝しむような目を向ける。 「えっと、リン君。リン君はそれを知って、どうするの?」  今さらなにを言っても、誤魔化すことはできない。  ならばカナタが気にすべきことは、今後のことだ。  カナタのもっともすぎる問いに、リンは相変わらず笑みを浮かべたままサラリと答える。 「特にどうもしないよ?」 「じゃあ、なんで訊いてきたの?」 「そうだったらいいな~って思ったから~っ!」  どことなくあどけない声で答えた後に、リンは胸を張った。 「こう見えて僕、友達の恋愛相談には多く乗ってきた方なんだ! 男同士って、色々大変でしょ? だから、僕で良かったらなんでも話してよ!」 「……ツカサさんに言ったり、誰かに言いふらしたりしない?」 「しないよ! 僕のことは【人の恋バナが大好きな、お節介系恋愛オタク】だと思ってくれれば大体合ってるから、ぜひぜひそう思ってよ~っ!」  それはそれで、どうにも信用するには足らない称号だ。  ……しかし、今のカナタにとっては渡りに船だった。  ツカサへの気持ちを、自覚したばかり。  ツカサの気持ちがカナタの抱く気持ちと同じなのか、気にはなる。  けれど、確認するだけの勇気はない。 「リン君の言う通り、オレは……ツカサさんが、好きだよ」  図らずもタイムリーに出現した救世主に、カナタは素直な気持ちを口にした。

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