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たった一言、ツカサに『オレをどう思っていますか』と訊くこともできず。
いつまで経っても自分に自信が持てず、自分の気持ちに責任と勇気も持てない。
そんなカナタが、誰かから『カッコいい』と形容されるべきではないのだ。
黙り込んだカナタに、リンが一歩近付く。
「ホムラさんの気持ちを知るのが、怖いってこと?」
リンの問いに、カナタは頷きで返す。
リンの目に、カナタとツカサはどう映ったのだろう。
ツカサがカナタのことを、好いてくれているように見えただろうか。
もしかするとカナタが見ていないところで、ツカサはリンになにかを言ったのかもしれない。
それはカナタの話かもしれないし、カナタに向けるものと同じ言葉をリンにも贈っていた可能性だってある。
そう考えてしまうほどに、カナタは自分自身に自信が持てなかった。
するともう一歩、リンがカナタに歩み寄る。
「じゃあ、言い方を変えてみたらどうかな?」
リンの言葉に、カナタは顔を上げた。
手を伸ばすと、届く距離。
それほどまでに近付いた距離で、リンはカナタへ笑顔を向ける。
「アプローチの仕方を変えるんだよ。極端に言うなら『好きって言ってくれますか?』じゃなくて『好きになってくれますか?』みたいな! 過程は違ってもゴールは同じって感じ? それなら、カナタ君の訊きやすい言い回しがあるかもしれないでしょ?」
その笑みは、先ほどまでの笑みとは違う。
思わず、カナタは考えた。
『こう見えて僕、友達の恋愛相談には多く乗ってきた方なんだ!』
つい先ほど言われたばかりの言葉は、本当なのだろう、と。
どこか頼りがいがあるリンの笑みに、カナタは思わず余計なことを口にする。
「リン君も、好きな人がいるの?」
そう言うと、リンは困ったように笑った。
「あはは~っ。それ、よく言われる。『人の恋バナなんて聞いてなにが楽しいんだ』って。その後、決まって『自分の恋愛が行き詰まっているから、人の経験を参考にでもするのか』ってさ」
そこまでの意味合いを含んでいたわけではないが、どうやらカナタと似た疑問を抱く友人は多いらしい。
リンは頬を掻いて、少し照れたような笑みを浮かべた。
「でも、違うよ。僕は誰かを好きになったりしない。ただ純粋に、恋をしている人が好きなだけ。モチロン、横恋慕って意味じゃなくてね?」
「そうなんだ。……なんだか、オレにはよく分からないかも……」
「じゃあ、言い方を変えるね。自分にできないことができる人って、輝いて見えない?」
「それは……っ。……うん、見える」
自分の言動に責任が持てるツカサを、カッコいいと思う。
そして、自分の好きなものに対して真っ直ぐなリンのこともまた、カナタは純粋にカッコいいと思った。
カナタからの同意に、リンはまたしても明るい笑みを浮かべる。
「だから、僕にとってはカナタ君とホムラさんは──」
──突然。
リンが、カナタからグンと引き離される。
それはリンの意思ではなく、まるで背後から誰かに引かれたようで……。
「──近い」
リンとは違い、来訪者の存在に気付いていたカナタは驚く。
ツカサが、目にも留まらぬ速さでリンの首根っこを引いたのだから。
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