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 チャンスは、一度きり。  そこを誤れば、きっとこの指は牙を剥く。  カナタはツカサを見上げたまま、小さく呟いた。 「……ツカサさんの、ことを……っ」 「俺のこと? なら、なんで俺じゃなくてヒシカワ君に話したの? 俺のことなら、俺に言えばいいじゃない」 「それ、は……っ」  ここで、問い詰める勇気があれば。 「オレが、ツカサさんの……っ」  どうしても、カナタは踏み出せない。  そこで不意に、リンの言葉を思い出した。 『過程は違ってもゴールは同じって感じ?』  結局、カナタはツカサにどうしてもらいたいのか。  カナタは、ツカサとどうなりたいのかを。  自分の気持ちを大局的に捉えて、カナタは口を開いた。 「──ツカサさんの、特別になりたいから。だからそのことで、どうしたらツカサさんに特別扱いしてもらえるかって相談を……して、いました」  カナタの答えに、ツカサは目を丸くする。 「そんなの、他人に相談しても意味なんてないよ。俺のことなら、俺に言ってくれないと意味がないでしょう? ましてや、あんな出会ったばかりの男に俺たちのなにが分かるって言うのさ」 「リン君が、相談に乗ってくれると言ってくれて。二人きりだったから、つい……」 「ふぅん」  カナタの首を掴む指が、ピクリと動く。  すると……。 「そうなんだっ! そうだよねっ、カナちゃんには俺だけだもんねっ!」  ようやく、ツカサの手が首から離れた。 「そうだよ。カナちゃんには俺しかいないのに、他の誰かに頼るワケがないよ。咄嗟のことで、仕方なかったんだよね。ごめんね、カナちゃん。俺がカナちゃんのそばを離れたから、カナちゃんはあんなぽっと出の男と口を聞いちゃったんだよね? ごめんね、本当にごめんね、ごめんねカナちゃん、ごめんね」  どうやら、カナタの言葉をツカサは曲解し、その上で納得したらしい。 「それにしても、少し嬉しいなぁ。カナちゃんが俺のことを、一人じゃどうしようもないくらいいっぱいいっぱいになるまで考えてくれていたなんて。その相談相手が俺じゃないのはイマイチよく分からないけど、いっぱいいっぱいだったなら変な行動を取っちゃっても仕方ないよ。うん、仕方ない! そんな人間じみたところも可愛いよっ」  一人で納得をするツカサは、機嫌を直したようだ。 「だけど、これからはなんでも俺に言ってね? 俺以外の奴に相談なんてしたって、時間の無駄だよ? カナちゃんのことを一番理解しているのは俺なんだから、他の奴のアドバイスなんて聞く意味ないでしょう? なにを言われたって、所詮は的外れだもの」  まるで子供を窘めるような口調でそう言い、ツカサはカナタの頬にキスをする。 「カナちゃんの特別は俺だけだもんね?」  ツカサの笑みを見て、カナタは眉尻を下げた。  ──この勢いのまま、言ってしまおうか。  危機を脱したカナタはどこか、勇気を手に入れた気がした。  ……実際は、安堵したことによる心の余裕だっただけだが。 「──オレの特別は、ツカサさんです。……だけど、ツカサさんの特別はオレですか?」  カナタからの問いに、ツカサは一度だけキョトンとする。  どこか気の抜けたような顔をしたまま、ツカサは小首を傾げた。 「──じゃあ、俺と一緒にお風呂入ろっか?」 「──へっ?」  それは。  あまりにも、予想外の返答だった。

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