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どうしてカナタは今、脱衣所にツカサといるのか。
「俺、こうやって誰かとお風呂に入るの初めてなんだぁ。……あっ、幼少期は抜いてね?」
いそいそと入浴の準備を進めるツカサには、どうしても訊けなかった。
服を脱ぎ、すぽっと顔を出したツカサはカナタを見て、照れたように笑う。
「だから、カナちゃんが初めて」
つまり、この行為こそが【特別】だと。ツカサはおそらく、カナタにそう言いたいのだろう。
だがカナタは当然、そういう意味での【特別】を求めたわけではなかった。
しかし、存外……。
「嬉しい、です。ツカサさんの、初めて」
ツカサがカナタの【初めて】に固執する理由が、分かった気がした。
不可解な状況には違いないが、ツカサが笑っている。
ならばカナタは、それでいい気がしてきた。
服に手をかけて、ツカサのように脱ごうとする。
そこでピタリと、カナタは手を止めた。
「……お風呂、ですよね?」
「ウン。お風呂だよ」
「服、脱ぎますよね?」
「ウン。脱ぐよ」
ズボンを脱ぎ捨てたツカサは、動きを止めるカナタに気付く。
「カナちゃん? どうかしたの?」
あれよあれよという間に、カナタは浴室に来てしまった。
だがよく考えると、入浴とは裸の付き合いということ。
それはつまり、ツカサに裸を晒すということだ。
「いえ、その……っ」
服に手をかけるが、どうしてもそれ以上動かせない。
だが、意識をしているとは思われたくなかった。ゆえにカナタは、慌てて靴下を脱ぎ始める。
しかし、どうしたってそれ以上のアクションが起こせない。
下着姿のツカサは、ぎこちない動きのカナタを不思議そうに見ている。
だがどうやら、ツカサはなにかに気付いたらしい。
「……あっ! 分かった!」
そう言い、ツカサはカナタに近付いた。
「──カナちゃん、俺に脱がしてもらいたいんだねっ?」
「──えっ?」
カナタが肯定や否定をする前に、ツカサはカナタの衣服に手をかける。
「いいよ、脱がしてあげる。甘えん坊なカナちゃんも可愛いねっ」
「いや、あのっ! そうじゃなくて──」
「そうじゃないの? ……もしかして逆に、俺のを脱がしたかった感じ? 後はパンツしかないんだけど、カナちゃんが脱がす?」
「パ……っ! けっ、結構ですっ!」
今まで散々、数え切れないほどセックスをしてきたのだ。
今さら裸を見られることに、ツカサは一切の感慨を抱いていないのだろう。
「はい、カナちゃん。バンザイして?」
だとしても、カナタの考えは違った。
「ツカサさん、オレは、その……っ」
どうしたって、恥ずかしいものは恥ずかしい。
けれどやはり、ツカサにはカナタの考えは届かないのだ。
「カナちゃんって、下から脱ぐ派? じゃあ、ズボンから下ろそうかっ」
そう言って笑うツカサは、カナタの恥じらいに一切気付かない。
……結局カナタは、ツカサの手によって衣服を全て剥ぎ取られたのであった。
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