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温かなお湯が、シャワーヘッドによってカナタへと降り注ぐ。
「目、閉じてね? 泡、流すよ?」
「はい、お願いします」
ツカサの手によって裸にされたカナタは今、またしてもツカサに翻弄されていた。
カナタの髪を洗いたいと申し出たツカサを振り切れず、されるがまま。
カナタは今、ツカサに髪を洗ってもらっている状況下にいた。
「カナちゃんの髪、少し伸びてきたよね。このまま伸ばす? それとも切るのかな? もしも切るなら、俺に言ってね? カナちゃんの髪を切っていいのは、カナちゃんにとって特別な存在の俺だけだからねっ」
数分前までとは比べ物にならないほど、ツカサは舞い上がっている。
上機嫌な声色でそう言い、ツカサはカナタの髪を洗い流していく。
「……はいっ、終わり。キレイになったよ」
「ありがとうございます、ツカサさん」
「どういたしましてっ」
家事を全て担ってくれている点から薄々気付いてはいたが、もしかするとツカサは世話焼きなのだろうか。
「カナちゃんが俺の手で、もっと可愛くなるなんて。……あははっ、なんだか贅沢だなぁ」
ただ髪を洗っただけだというのに、楽しそうだ。
ツカサが喜んでいると、不思議とカナタも嬉しくなってしまう。
きっとこれが、人を好きになるということなのだろう、と。カナタはどこか他人事のように、そう感じてしまった。
すると突然、背後に座るツカサがカナタの背中に肌を密着させる。
「ちょっとごめんね」
そう断りを入れて、ツカサはボディソープへと手を伸ばした。
指でポンプを押し、ツカサは手のひらにボディソープを垂らす。
そしてそのまま、カナタにとっては衝撃的すぎる言葉を、ツカサはサラリと口にした。
「──体も洗ってあげる。リラックスしていてね」
一連の流れをボーッと見ていたカナタは、ツカサの言葉を理解するのにほんの一瞬だけ時間を要する。
──それが、過ちなのだとも気付かずに。
「えっ? いや、さすがにそれは自分で──ひ、っ!」
素肌を這う感触に、カナタは慌てて背後を振り返る。
ボディソープを、ツカサは確かに取っていた。
しかし、それは【手のひら】だ。
「あの、ツカサさんっ? なんで、スポンジじゃなくて手なんですか?」
至極当然な問いに、ツカサはまたしてもサラリと答える。
「素手で洗った方が隅々まで確実に届くかなぁって。それに、感触も直に伝わるでしょう?」
「それは──あ、っ!」
にゅるり、と。
ツカサの手が、カナタの腰を撫でた。
「ツカサさん、それは……少し、くすぐったいです……っ」
ツカサは、善意で体を洗ってくれている。
それを【いやらしい行為】だと決めつけるのは、気が引けてしまった。
ゆえにカナタは、当たり障りのない言葉でツカサから解放してもらおうとする。
しかし、ツカサは【世話焼き】だ。
「ちょっとだけ我慢してね? 今日も仕事で動いたから、いっぱい汗かいたでしょう? ちゃんとキレイにしないと」
身をよじるカナタの真意にも気付かず、ツカサはカナタの体に指を這わせた。
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