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普段は聞かないような、荒々しい水の音。
そんなものに構う余裕が、カナタにはなかった。
「はっ、あ、あぁ……あん、んっ!」
湯船でお湯に浸かりながら、カナタは後孔へ与えられる快楽に溺れる。
背後からツカサに犯され、カナタはただただ喘ぐ。
「カナちゃん、気持ちいい?」
「気持ち、い……っ! んっ、く、あっ!」
「動くとナカにお湯が入っちゃうね。なんだか、変な感じ」
まるで波のように暴れるお湯が、カナタの体を荒々しく撫でる。
その感覚にすら、カナタの体は悦びを感じてしまった。
「カナちゃんは気付いているかな? カナちゃんの可愛い声が、メチャクチャ反響しているって」
ツカサの指摘に、カナタは慌てて口を手で押さえる。
「んっ、ぅ……ふ、ぁ……っ!」
「あははっ! 声、我慢できてないよ?」
楽しそうに笑いながらも、ツカサはカナタの後孔を男根で穿ち続けた。
「そう言えば、お風呂でセックスしたのは幼少期を抜かなくてもマジで初めてかも。カナちゃん、俺の【初めて】嬉しい?」
カナタの口元から手を奪い、ツカサは訊ねる。
声を隠すことができなくなったカナタは、それでも懸命にツカサの問いへ答えた。
「んあっ、ん、っ! う、うれっ、し……っ、嬉しい、です、っ!」
「ホント? そう言ってもらえると、俺も嬉しいなぁ」
「ひぅっ!」
より深く、ツカサの逸物が挿入される。
「素直なのはいいことだから、ご褒美に気持ちいいところをいっぱい突いてあげる。カナちゃんはココをこうやって、ちょっと乱暴に突かれるのが好きだもんね?」
そう言い、ツカサはカナタの【好きなところ】を何度も突く。
カナタが淫らに喘ぐと、ツカサはとても幸福そうに瞳を細めた。
「ホンット、カナちゃん可愛すぎてヤバい……っ。ねぇ、なんでそんなに可愛いの? 同じものを食べて同じ場所で生活をしているのに、どうして? 可愛すぎるよ、カナちゃん……っ」
「そんなっ、こと──」
「『そんなことない』なんて言わせないよ。カナちゃんは可愛いんだから」
途端に、抽挿が荒々しく激しいものとなる。
「ねぇ、カナちゃん。人は誰しも、自分の意見を我慢しなくちゃいけないときが絶対にある。これは、言いたくないけど仕方のないことだよ。……だけど、だからってどちらか片方だけが悪い訳じゃない」
ツカサの言葉に、カナタは喘ぎ声を漏らしながらも耳を傾ける。
「カナちゃんが誰かのために我慢するのはおかしいし、だからって相手が我慢してくれるわけでもない。これも、仕方のないことだよ」
「ツカサ、さん……っ?」
「だけど──だからかな」
「んっ」
ツカサは言葉を区切った後、薄く開かれたカナタの唇に自らの唇を重ねた。
すぐに口付けは終わり、代わりに向けられたものを見て、カナタは驚く。
「──見た目で判断された俺を庇ってくれて……否定してくれて、ありがとう。凄く、嬉しかったよ」
ツカサの、柔らかな微笑み。
告げられた言葉は、おそらくリンとの会話についての感謝だろう。
『ツカサさんはそんな人じゃない! 見た目で判断しないで!』
いったい、どこからどこまで聴いていたのか。
そう訊ねることが、カナタにはできない。
「カナちゃんは、そのままのカナちゃんでいて。そこには、未来永劫【誰か】なんて関係ない。カナちゃんは、カナちゃんだから。自分を否定しないで、誰かに押し潰されもしないで」
「んっ、あっ!」
「ずっと、俺だけのカナちゃんでいて。誰のことも好きにならないで、俺だけを好きでいて。ずっとずっと、俺だけを見ていてね」
容赦のない腰遣いに、カナタはすぐさま体が高まる。
「カナちゃん、ごめん。ナカに出すね」
そう囁いたツカサに、もう一度口付けられた時……。
「──んんっ、ん、んぅっ!」
カナタは湯船の中で、絶頂を迎えた。
ビクビクと体を震わせるカナタから、ツカサはそっと唇を離す。
「また体、汚れちゃったね。もう一回洗おうか」
ツカサから向けられる優しい瞳と言葉に、カナタは頷く。
いつだって、ツカサはカナタの味方でいてくれた。
そんなツカサのようになりたいと、カナタはきっと憧れていたのだ。
ツカサから向けられた、感謝の言葉。
それはきっと、ツカサではなく……。
「……ありがとうございます、ツカサさん」
しかしそのことを、ツカサは知りもしないのだ。
6章【そんなに嬉しそうにしないで】 了
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