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6.5章【そんなに看病しないで】 1

 ツカサへの好意に気付いて、数日。 「うぅ~……っ!」  カナタは毎日、浴室で悶えるようになっていた。  それは、ツカサへの気持ちに気付いた翌日のこと。  つまり、ツカサと初めて一緒に入浴した時のことだ。 『カナちゃんのエッチ。体を洗われているだけなのに、体がビクビクってしちゃってるよ?』  ツカサがあんな声で、カナタを辱めるから。 『──カナちゃんが乳首だけでイくところ、見てみたいなぁ?』  ツカサがあんな恥ずかしいことを、カナタに要求したせいで。 『ずっと、俺だけのカナちゃんでいて。誰のことも好きにならないで、俺だけを好きでいて。ずっとずっと、俺だけを見ていてね』  ツカサがあんなにも、嬉しそうな声でカナタを繋ぎ留めるから。 「ツカサさんの、ばか……っ!」  カナタは浴室に来るたび、あの日のことを思い出してしまうようになった。  これではツカサの【特別】を貰い、カナタへ夢中になってもらうという作戦が台無しだ。  ……そもそも、当初から破綻していた計画ではあるが。  カナタはそっと顔を上げて、脱衣所の鏡に映る自分を見る。  女のように柔らかそうだとは、当然言えない。  しかし男にしては頼りない体が、あまりにも中途半端だ。  せめて、どちらかに偏っていたら。  そうしたら、ツカサをもっと夢中にできていたのだろうか。 「胸があったら良かったのかな。それとも、男としてはヤッパリ胸筋? 鍛えた方がいいのかな?」  しかし、そういった悩みの後にはいつだってツカサの笑顔が思い返される。  カナタを見て、笑いながら『可愛い』と言うツカサのことが。 「……お風呂に入っちゃおう」  裸のままで悩んでいたカナタは、脱衣所から浴室へと移動する。  浴室の戸を開けると、ふんわりと温かな空気が流れてきた。  それと同時に、どこかいい香りもする。  こうして浴室がいつだって温かいのは、ツカサが準備をしてくれているから。  いい香りがするのも、ツカサがカナタのことを想って毎日入浴剤を用意してくれているからだ。  ペタンとバスチェアに座ったカナタは、シャワーにそっと手を伸ばす。 『ツ、ツカサさん……っ! シャワーの勢いが、少し、強くて──あ、っ!』  そこでまた、カナタはツカサとの情事を思い出してしまった。 「うぅぅ~……っ!」  頭を抱えて、カナタは小さく呻く。  最近の自分はおかしいと、カナタは分かっていた。  主に、ツカサへの好意を自覚してから。  どんどん欲張りになっていて、どんどん視野が狭くなっている気がする。  ……しかし、この状況をどうにもできないのだから仕方ない。  そしてなにより、ここまで日常生活にすら支障をきたすほどツカサのことが好きなのだから、やはり仕方ないのだ。  今なら少しだけ、ツカサが『仕方ない』を口癖のように乱発する意味が分かりそうだった。  そのくらい、カナタはツカサのことでいっぱいいっぱいになっているのだから。 「……オレは、ツカサさんが好き、です」  目の前にある、曇った鏡。  そこに指を這わせて、カナタは『すき』と書く。  そんな乙女全開な自分に呆れつつ、カナタは鏡に向かってシャワーのお湯をかける。 「あの日も結局、ツカサさんから『好き』って言ってもらえなかったよな」  浴室で散々体を愛されたくせに、たった一言の愛情は受け取っていない。  そこにどんな差があるのかと、誰かに語れば笑われるかもしれないけれど。  それでもカナタにとっては一大事で、とても大切なことなのだ。 「ツカサさん……っ」  シャワーの音が降り注ぐ中、カナタはまるで溶かすように呟く。  ──『大好きです』と。

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