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そんなことを連日続けていたカナタは、ある日。
「ん、っ?」
妙な違和感によって、目を覚ました。
カナタは目を閉じたまま、眉を寄せる。
そのままそっと、自身の額に手を伸ばした。
「……なに、これ?」
妙な違和感は、自身の額にある。
知らないような、知っているような違和感だ。
妙な重みのせいで、カナタはその違和感を落としてしまわないようにと行動を制限された。
……それと、もうひとつ。
今しがた発した自分の声が、いくら寝起きで喉が乾燥しているとはいえ、妙にガラついていた。
懸命に瞼を上げ、カナタはぼんやりとかすむ視界を眺める。
そこで、もはや日常となってしまった光景を認識した。
「ツカサ、さん。……おはよう、ございます……?」
寝起き一発目に見るのは、自室の壁や天井ではなくツカサの顔。これはもう、いつの間にか日常となってしまった出来事だ。
しかし、問題はその【表情】だった。
ツカサはいつも、慈愛に満ちていながらもキラキラと眩しい笑みを浮かべている。
だが、今のツカサはどうだろう。
「カナちゃん……っ」
眉を寄せて、眉尻を下げて。
あまりにも悲しい声で、カナタの名前を呼んでいるのだ。
どうしてこの美丈夫は、こんなにも悲痛に顔を歪ませているのか。
状況がまったく理解できていないカナタは、手始めに目覚めの要因ともなった【額の違和感】について訊ねることとした。
「オレのおでこ、なにか付いていませんか?」
「俺だって、こんな残酷なことしたくなかったよ」
「えっ? ざ、残酷、ですか……っ?」
返ってきたのは、どう受け取っても穏やかとは言い難い言葉。
「だけど、こうするしかなかったんだよ。ごめん、ごめんね、ごめんねカナちゃん。カナちゃんの可愛いおでこにこんな非人道的行為をしてしまって、本当にごめんね……っ」
「非人道的、行為……っ?」
「そんな目で俺を見ないで、カナちゃん。今日のカナちゃんの目は、俺の心を酷くかき乱すんだよ。だけど、こうなってしまったのも全部俺のせいなんだよね。ごめん、ごめんね、ごめんね……っ!」
状況は分からないが、ひとつだけ確実に分かっていること。
──それは、ツカサが酷く自分を責めているということだ。
結局カナタの問いに対する明確な答えは返ってきていないが、どうやら【今のカナタ】がツカサを悲しませているらしい。
ならば、カナタが取るべき行動はひとつ。
「ツカサさん、オレは平気ですよ。だから──」
──そんなに落ち込まないでください。
そんな言葉を、カナタはツカサに伝えようとした。
しかしカナタの言葉を、ツカサは首を横に振ることで制してしまう。
いったい、なにが起こったのか。
カナタはいつもと同じように目を覚まし、いつもと同じようにツカサへ『おはよう』と言っただけなのに。
そこでようやく、カナタは額以外の違和感を思い出す。
いつもと同じように、言葉を紡いだ。
──いつもと、同じように?
カナタは自身の喉に指を添え、違和感に意識を向けた。
「少し、喉が痛いような……?」
すると。
「カナちゃん、驚かないで聴いてほしい」
ツカサの真剣な眼差しが、カナタの瞳に映り込む。
端整な顔立ちであり、尚且つ好きな男のドアップ画角。カナタの胸は不覚にも、トクリと高鳴った。
それに加えて、妙に体も熱くなる。
……体が、熱い?
「カナちゃん、今のキミはね……」
言葉を区切り、ツカサは躊躇のような態度を示した。
コクリとカナタが唾を飲み込むと、上下する喉にはやはり違和感がある。
けれど、ツカサの言葉によって。
「──風邪を、ひいているんだよ……っ!」
カナタは現状を、全て【正しく】理解した。
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