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 狼狽していたツカサを落ち着かせた後、ようやくまともな会話が成立した。 「つまりツカサの言い分じゃと、カナタが体調を崩したのはワシのせい。……そう言いたいのじゃな?」 「むしろそれ以外にないよ」  ……まともな会話なのかどうか、カナタには自信がなかったけれど。  ツカサはカナタの肩まで毛布を掛けた後、呆れ返ってしまっているマスターを振り返る。 「このままじゃ、カナちゃんは死ぬ。その原因は、マスターから強要された過酷な労働。だけど、それを助けてあげられなかった俺も同罪。だから、全員で死ぬしかないんだよ。俺はカナちゃんがいる世界じゃないと生きられないし、カナちゃんと俺を死へ追いやったマスターをこのまま生かしておくわけにはいかないからね。これは、しょうがない。しょうがなくて、仕方ないんだよ」 「オレ、死にませんよ」 「ワシ、絶対冤罪じゃ」  ツカサが落ち着いたと思ったのは、些か早計だったらしい。  暗い瞳のままツカサはブツブツと言葉を紡ぎ、ベッドに寝そべるカナタを振り返った。 「俺を残して死ぬなら、カナちゃんは絶対地獄に行くよ。だから俺は、カナちゃんを追って地獄に行く。そして、カナちゃんを殺したマスターも地獄に行く。俺は地獄でもカナちゃんを捕まえるし、俺はたとえ地獄であろうと、もう一度マスターを殺す」 「マスターさん、今すぐ逃げてください」 「カナタ、お主こそ今すぐ逃げるのじゃ」  完全に理性を失っているツカサをどうすることもできず、カナタとマスターは互いの身を案じる。  しかし、ツカサを放置しておくわけにはいかない。  先に動いたのは、マスターだった。 「ところで、今日の仕事はカナタを休ませようと思うのじゃが、ツカサはそれで良いか? 二人ともなかなか起きてこないからなにかあったのかと思ったのじゃが、こういうことなら休ませるべきじゃろう?」  おそらく、そのことでツカサとカナタを探していたのだろう。  すぐにツカサは、暗い瞳をそのままに口角だけを上げる。 「なにを言っているの、マスター? カナちゃんが休むなら、俺だって休むよ。仕事はマスターとヒシカワ君の二人でどうぞ、ご自由に」 「阿呆! 今日は天気も良いし、客足も上々だと分かるじゃろうが!」 「ちょっと前までは俺とマスターの二人で切り盛りしていたんだし、ヒシカワ君と二人でもできるでしょ」  すぐに、ツカサの顔から薄っぺらな笑みが消えた。 「それとも、なに。まさかマスターは、俺とカナちゃんを引き離そうとするの?」 「カナタ! カナタぁッ!」  即座に出されるSOS。  カナタは慌ててツカサの袖を掴み、普段以上に輝きがない瞳をマスターから外させる。 「カナちゃん? どうしてマスターの味方をするの?」  今のツカサは、とても危険だ。  しかし、そんなツカサを正常に戻せるのはカナタだけ。  カナタは首を小さく横に振り、決してマスターの味方をしているわけではないとアピールする。  そして、この状況を切り抜ける言葉を発した。 「ツカサさん、仕事に向かってください」 「だけど──」 「ツカサさんがオレの部屋にいたら、オレはツカサさんとお喋りしたくなっちゃいます」  言外に、ツカサが部屋にいると眠れず、尚且つ休めないと伝える。  その言葉はかなりの威力を持って、ツカサの心を揺さ振った。 「カナちゃん……っ」  ようやく、ツカサの瞳が普段と同じものに変わる。  カナタをジッと見つめたツカサの眉尻が、悲し気に下がった。 「……それでも、俺はカナちゃんが心配だよ……っ」  その声には、憤りのようなものが混ざっている。  それはおそらく、ツカサ自身に対するものなのだろう。

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