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 結局、カナタはほとんどの時間を寝て過ごした。  軽めの朝食と薬を摂取した後は、静かに眠り。  昼食のお粥をツカサが持って来てくれた後も、静かに眠った。  そして、カーテンの向こう側で夕日が輝いている今現在。 「さすがに、もう眠れないかも」  カナタは、睡眠欲の限界を感じていた。  ゴロリと寝返りを打ち、カナタはぼんやりと扉を眺める。  ツカサが来る直前には、目を閉じていなくてはいけない。  目を開くと同時にツカサの顔を見ないと、ツカサとの約束を破ることになってしまうからだ。  だが、今は営業時間中。休憩時間でもない。  ツカサが確実に来ないと分かっているからこそ、カナタは扉を見つめていた。  静かな部屋には、秒針の音だけが我が物顔で踊っている。  時々入る合いの手と言えば、外で道路上を走る車の音。  静まり返っていると言ってもいいほどの室内で、カナタは呟いた。 「──寂しい」  おかしな話だと、カナタは自分自身で思う。  誰だって、一人になる時間がある。それは絶対に必要な時間で、なにもおかしなことではない。  現にカナタも、一人になる時間が毎日あった。  トイレや、風呂。就寝や、それ以外にも……。  しかし、それ以外の時間はどうだろう。  ──カナタのそばにはいつだって、ツカサがいてくれた。 「厄介だなぁ……っ」  風邪をひくと、妙にもの悲しい気持ちになってしまう。  これはカナタの心が弱いからではないと、なんとか見栄を張る。  そんなことをしたところで、胸の真ん中にある【寂しい】という感情が消えるわけではなかったが。  ふと、カナタはベッドサイドテーブルに置かれたスマートフォンを見つめる。 『なにかあったら、店の方に連絡して? これ、俺の携帯』  携帯電話と言われるくらいなのだから、こういったものは所有者が肌身離さず携帯しておくべき代物なのだろう。  個人情報の塊とも呼べる物が、所有者ではなく他人の手に預けられている。  ツカサがなんの迷いも見せずに、あっさりと置いて行ったのだから。  カナタには操作できないと、高を括ってか。  ……否。きっと、違う。  ──カナタを、信じているから。  ──カナタに知られて困ることはないと、ツカサがツカサ自身を信じているからだ。  実際のところ、カナタはスマートフォンの操作方法を知らない。  一度も使ったことのないスマートフォンでは、電話のかけ方すらをも知らないのだ。  それを訊かず、知っているフリをしたのは見栄ではなかった。  微々たるものだとしても、ツカサに不安要素を与えたくなかったからだ。  いつか露呈する嘘だとしても、カナタは【今】のツカサを守りたかった。 「女々しいよな、オレって」  そう呟いて、カナタはスマートフォンの画面をトンと指で叩く。  すると突然、指に反応した画面がパッとひとりでに光った。  ボタンを押さずとも反応するとは思っていなかったカナタは、勝手に光った画面を見て驚く。 「わっ」  そして、すぐに。 「……ツカサさんってば」  ──カナタは、破顔した。  なぜなら、光った画面に映っている写真が笑いを誘ったのだから。 「盗撮だよ、これ」  すぐに黒一色となった画面には、カナタの笑みが反射している。  だが、そのことに対してさほど違和感を抱かない。  画面が点灯していようと、真っ暗だろうと。  ──どちらにも、カナタの笑顔が映し出されていたのだから。

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