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6.5 : 7

 夜になり、駆け足寄りな早歩きの音が廊下から聞こえてくる。  すぐにカナタは目を閉じ、足音が近付くのを待った。 「入るよ、カナちゃん!」  ノックもせずに扉を開けたツカサは、すぐにカナタのベッドへ近寄る。  それからカナタの口のすぐ上に、ツカサの手がかざされた。……おそらく、呼吸の確認だろう。 「良かった、生きてる……っ」  ──勝手に殺さないでください。  そう言わなくてはいけないのに、こんなにも心配してもらえたことが嬉しくて。 「……カナちゃん、起きてる?」  思わずカナタは、口元をもにょもにょと動かしてしまった。  そっと瞼を開けて、カナタはツカサを見上げる。 「はい。……すみません」 「ううん、いいよ。生きていてくれたら、今日はそれでいいよ。……良かった、よかったぁ……っ」 「オレは大丈夫ですよ。……それより、お店の方は大丈夫でしたか?」 「うん、大丈夫。片付けはマスターとヒシカワ君に頼んだから」  それはおそらく『大丈夫』ではないし、きっと『頼んだ』などという穏やかなものでもないだろう。  しかし、そういった言葉で水を差すわけにはいかない。  ツカサはなによりも、カナタを優先してくれた。  それを『嬉しい』と思っているのだから、なにかを言う権利がカナタにはないのだ。 「夕食を持ってきたけど、食べられそう? 気持ち悪いとか、そういうのはない?」 「はい、大丈夫です。……えっと、嬉しい、です」  素直に、気持ちを口にする。  普段ならば少し恥ずかしい言動も、今日はできる気がした。  ある意味で、熱には感謝かもしれない。  ……そんなことを言ったら最後、ツカサがどんな豹変を見せるかは分からないが。 「お昼は玉子がゆにしたけど、夜は鮭がゆにしてみたよ。元気になったら、なんでも好きなものを作ってあげる。だから、早く元気になってね」  寂しそうに笑うツカサに、カナタも笑みを返す。  ベッドの隣に座ったツカサは、ジッとカナタを見つめた。 「……俺が『あーん』ってしても、いい?」  それは、昼のこと。  ツカサは全く同じことを、カナタに訊ねた。  昼の答えは『恥ずかしい』という理由で拒否。  ……最終的にはツカサの圧に負け、食べさせてもらったが。  このやり取りは数時間前に経験済みなので、カナタの答えは必然的にひとつになる。  だが今、そう答えたのは『渋々』といった気持ちではない。 「お願いします」  ツカサが日中、どれだけカナタのことを想ってくれていたのか。  それは、カナタにはどうしたって分からない。  だが、カナタがどれだけツカサのことを想っていたか。それだけは、カナタが一番よく知っている。 「ありがとう、カナちゃん」  レンゲでお粥を掬い、ツカサはふーっと息を吹きかけながら熱を除く。  こうしてカナタのことだけを見ていてくれる時間を、贅沢で卑怯だとは思う。  それでもやはり、カナタは寂しかったのだ。  普段は『寂しい』と思う隙を与えないほど、ツカサがそばにいてくれるから。  その時間を失ってから、改めてカナタはツカサへの好意を深めてしまった。  ……まるで全てが、カナタのツカサに対する想いを強めるための作戦にも思えてくるほどに。 「はい、カナちゃん。あーんっ」  微笑むツカサが差し出すレンゲを見て、カナタはほんのりと羞恥心が込み上げてくる。  だとしても、今は素直に甘えたい。 「あー……っ」  カナタは言われた通り、口を開いた。

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