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 カナタからのおねだりに、ツカサは頷いた。 「うん。……うんっ。モチロンだよ、カナちゃん」  ギュッと、ツカサの冷えた手がカナタの熱くなった手を握る。  ツカサからすると、カナタを安心させるための行動だ。  だが、それにしては……。 「あの、ツカサさん? 少しだけ、痛いです」  ツカサの握力は、強すぎる。 「うん。ごめんね。だけど、もう少しだけ」  そう言うツカサは、両手でカナタの手を握っていた。  痛みに眉を寄せるカナタには気付いていないツカサが、まるで独り言のように呟く。 「このまま、繋がらないかなぁ……っ?」  おそらく、裏の意味はない。  ──純粋且つ本気で、ツカサはカナタと融合したいのだ。  カナタの手を痕が残りそうなほど強く握ったまま、ツカサは呟く。 「どうして、俺たちはひとつになれないんだろう。ひとつになれたら、ひとつで在れたら、カナちゃんの苦しみを等身大の大きさで分かってあげられるのに……っ」  握ったカナタの手を、ツカサは自身の額へ向かって引き寄せる。 「つらい思いをさせてごめんね、カナちゃん……っ」  どうして、ツカサがこんなにもツカサを責めるのか。  こうして風邪をひいたのは、カナタが裸のまま悶々としていたからだというのに。  全て、カナタの自己責任以外のなにものでもないのにだ。  瞳を閉じるツカサの、冷たい手。  その手を、カナタはきゅっと握り返す。  悲し気に閉じられていたツカサの目が開かれ、枕の上にあるカナタの顔へ視線が向けられた。  ツカサの視線を真っ直ぐと受けながら、カナタはゆっくりと口を開く。 「ひとつになっちゃったら、こうして手を繋げなくなります。オレはそれが、少しだけ寂しいなって思います」  カナタの言葉に、ツカサは目を丸くした。  そして、すぐに……。 「……そう、だね。それは、うん。俺も、寂しいかな」  ツカサの手から、痛いほどだった力が抜ける。 「ねぇ、カナちゃん。なにか、ワガママを言ってよ」  優しくカナタの手を握り、ツカサは微笑む。 「なんだっていいよ。甘いものが食べたいとか、欲しいものがあるとか。してほしいことでもいいし、したいことでもいい。俺は今凄く、カナちゃんのワガママを叶えたいんだ」  『酔狂だ』と、一蹴するのは簡単だ。  しかし、カナタはそうしたいとは思えなかった。  随分と下がった熱だけれど、カナタは体調不良に便乗する。  ほぼ、平熱。  つまり、ありのままのカナタではあったが。 「──キス、してほしいです」  あまりにもカナタらしくないことを、カナタは口にする。 「だけど、口は嫌です。あと、変なところも、その……変な気持ちになっちゃうので、今日はやめてほしいです」 「カナちゃんの言う『変なところ』は良く分からないけど、口は? どうしてダメなの?」 「風邪がうつっちゃうかもしれないからです」 「えぇっ? なにそれ、今さらじゃない?」  手を握ったまま、ツカサは笑う。どうやら少しずつではあるが、普段のツカサに戻ってきたらしい。  いつもと違う一日を過ごしたからこそ、普遍的なやり取りが幸福に感じるだなんて。  本当に、カナタは欲張りになってしまったようだ。

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