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 確かに、なんだかんだと長い時間を共有してしまった気はする。  だが、それでも直接的すぎる行為は避けたかった。  それがちっぽけな矜持だったとしても、カナタは断固として譲れない。  ツカサはカナタの手を握ったまま、小首を傾げた。 「それなら、どこにならしていいの?」  ツカサからの問いに、カナタは逡巡する。そのままふと、視線を落とす。  落とした先にあったのは、繋いだ手だ。 「……手の、甲。手の甲に、してほしいです」  まるで王子様とお姫様のようで、少しだけくすぐったい。  決して、カナタはお姫様になりたいと思っているわけではない。  ましてや、可愛いものが好きだからといって少女マンガ的展開に憧れがあるわけでもなかった。  カナタは【女になりたい】のではなく、あくまでも【可愛いものに囲まれていたい】だけなのだから。  それでも、今は。  ……今だけは、それでもいいかと思ったのだ。  ツカサはきっと、こんなカナタを突き放さないから。 「分かったよ」  いつだってツカサは、笑顔であっさりと、カナタを受け入れてしまうのだ。  ……そういうところにカナタは惹かれてしまったのだから、どうしようもないと言えばそれまでだが。 「カナちゃんの体調が、早く良くなりますように」  そう囁き、手の甲に口付けが落とされる。  触れる程度の口付けはすぐに終わり、嬉しさと寂しさが同時にカナタの胸にやって来た。  手の甲が熱いのに、手の甲が羨ましい。  自分の体なのに、まるで自分とは乖離した部位のように思えた。 「ありがとうございます、ツカサさん。絶対、明日には全快します」 「うん。元気になってから、さっきカナちゃんが言っていた『変なところ』にもいっぱいキスしてあげる」 「それは、忘れてください……っ」  会話を重ねると、カナタはツカサを『好きだな』と改めて実感する。  ──離れがたい。  直球すぎる欲求を、カナタはどうすることもできない。 「……ツカサさん」 「うん。どうかした?」 「もうひとつ、ワガママを言ってもいいですか?」 「モチロンだよ。なんでも言って?」  カナタはツカサの手を握り、頬を赤らめた。  そして、ポツリと呟く。 「──オレが寝るまで、そばにいてほしいです」  すると、なぜか。 「カナちゃん、それはできないよ」  ツカサが、カナタの手を放してしまった。  もしかして、予定があるのか。  それとも、長時間の拘束は苦痛だったのかもしれない。  突如として、言いようのない不安感がカナタを襲う。  ……しかし。 「──だって俺、今日はカナちゃんの部屋に布団を敷く予定だから。【寝るまで】って限定されても、困るよ」  実に、予想外で。  実に、ツカサらしい理論だ。 「本当は同じベッドで寝たいけど、きっとカナちゃんは嫌がるかと思って。敷布団は俺の部屋にあるから、後で持って来る予定だよ」  ツカサの言葉を受け、カナタは顔を真っ赤にし、毛布の中へと器用に埋まっていく。  その反応を誤解したらしいツカサは、微笑みを浮かべてカナタを見つめる。 「もしかして……カナちゃんが寝ている間に、俺がなにかするんじゃないかって思っているの?」 「そういう、わけじゃ……っ」 「そうだねぇ。強いて言うなら『寝顔を堪能する』つもりではあるけれど、もしも希望や要望があるのなら叶えるよ」  ツカサの言葉に、カナタはなおさら赤くなった。  どうしてこの男は、こんなにも簡単にカナタを一喜一憂させてしまうのか。  酷く恨めしくて、酷く愛しい。  相反する感情を抱きながらも、カナタは毛布の中で「ツカサさんのばか」と呟いた。

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