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ツカサが、一緒にいてくれる。
ツカサが、カナタの部屋に寝泊まりしてくれるのだ。
ほとんど平常時と変わらない体調にまで回復したカナタは、毛布の中でソワソワと浮足立つ。
「今日は、エッチなことしませんよ?」
「えっ、なにその注釈。まるで俺が下半身で生きている性欲の化身みたいじゃない? そもそも俺、そんなにエッチなことしてなくない?」
「…………」
「えっ、その目はなにっ? どういう意味っ?」
ほぼ毎日セックスをしているというのに、どの口がなにを言っているのか。
だが、今日はツカサの言い分をスルーしよう。
なんにせよ、ツカサが一緒にいてくれることが嬉しいのだから。
「もしかしてカナちゃん、俺がこの部屋に泊まるって知って喜んでくれているのかな?」
毛布から目元しか出していないというのに、ツカサから見破られるほどに。
カナタは顔を真っ赤にして、すぐに毛布の中へと隠れる。
「あっ、ちょっと、カナちゃん? それはズルいよぉっ」
今日のカナタは病人だ。
いくらツカサでも──ツカサだからこそ、毛布を剥ぎ取るなんて乱暴なことはしないだろう。
すると、ツカサの動く音が聞こえた。
「もう、酷いなぁ。カナちゃんが隠れちゃうなら俺、自分の部屋に戻っちゃうからね」
「っ!」
慌てて、カナタは毛布から顔を出す。
すると──。
「──んっ」
唇に。
ツカサの唇が、重ねられた。
閉じてられていたカナタの口を、ツカサの舌が強引にこじ開ける。
「あ、ふ……ん、っ」
ツカサの手によって綺麗にされた口腔を、ツカサの舌が這う。
甘美な触れ合いに、カナタの瞳はとろんと蕩ける。
──もっと。
──やめないで。
正直なところ、カナタの頭は欲望全開だ。
だが僅かな理性が、カナタの欲望を一蹴する。
「ん、ん……っ! やっ、だめ……っ!」
カナタはツカサの肩を押し返し、必死に口を離す。
「風邪、うつっちゃうかもしれないじゃないですか……っ!」
拗ねてみせると、すぐにツカサはカナタの後頭部に手を回した。
そのままカナタを引き寄せて、ツカサは囁く。
「──カナちゃんの熱なら、全部欲しいよ」
「──っ!」
ついさっき、カナタのことを『酷い』と言っていたのは誰だったか。
キスをされて、引き寄せられて。
カナタの心臓は張り裂けそうなほど早鐘を打っているというのに、ツカサの胸からは一定のリズムで鼓動が聞こえてきて。
こんなことは普通だと、体に言われているようで。
──風邪の熱は、渡したくない。
──代わりに、心の熱を共有したいと。
そう言える勇気を持っていないカナタからすると、ツカサの方が断然酷い男のように思えた。
「今のキスは、さっきのおねだりに対してのオマケだよ。カナちゃんが可愛かったから、ね?」
「オレ、口は嫌だって言ったのに……っ」
「それじゃあ、俺にイジワルをするカナちゃんへのイタズラってことで」
「矛盾、しています」
拗ねるカナタの後頭部をポンポンと優しく叩いた後、ツカサは立ち上がる。
「寝る準備とか済ませてくるから、少し待っていて? あっ、だけど……眠かったら寝ていいからね。それでも俺は、ちゃんとこの部屋に来るから」
そう言いウインクをするツカサに、カナタは不覚にもときめいてしまう。
いったい何度、ツカサに惚れ直してしまうのだろうか。
いったい何度、ツカサへの想いを自覚させたら気が済むのかも、分からない。
ツカサが部屋から出た後、カナタはベッドの上に落としてしまった濡れタオルを拾う。
……未だに、ツカサから『好き』という二文字はもらえていない。
それでも、今日はいい日だった。
カナタはぼんやりとそんなことを考えて、ツカサが戻ってくるのを待つ。
我ながら、単純すぎて不甲斐ない。
そうは思っても、好きなものは好きなのだ。
「ツカサさん、大好き」
呟くと同時に、枕に頭を預ける。
──もう、裸のままツカサのことを考えるのだけはやめよう。
そう固く誓ったカナタは、扉が開くのを待ち続ける。
……余談ではあるが、ツカサの看病が功を奏した結果、翌日のカナタは体調を全快させたのであった。
6.5章【そんなに看病しないで】 了
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