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 嬉しそうにしているツカサを見ると、カナタの胸はキュッと締まった。  堪らず、カナタはツカサの背に腕を回す。  すると当然、ツカサは驚く。 「どうしたの、カナちゃん? 素直に甘えてくるなんて、珍しいね?」  ツカサともっと、密着したい。  それ以上に、日中はあまり話せなくて寂しかった。 「なんとなく、です」  一言では説明しきれず、なによりも口に出すことが恥ずかしい本心を、カナタは便利な言葉で隠す。  それでも、ツカサは深く追求しない。  カナタの背に腕を回し、さらなる抱擁をツカサも求めた。 「なんとなく、か。理由もなく抱き締めてもらえるなんて、嬉しいなぁ。今日の俺はツいているねっ」  カナタの頭を撫でながら、ツカサは陽気に続ける。 「あっ。もしかして、今日一日俺に構ってもらえなくて寂しかったとか? なぁんて──」  ツカサにとって、取るに足らないほんの些細な冗談だったのだろう。  しかし……。 「──っ!」  ──嘘を吐けないカナタは、すぐに動揺を態度で示してしまった。  ビクリと肩を震わせ、いかにも『図星です』と体で示す。  飲み込んだ息すらもが、露骨すぎるほどに分かりやすい動揺だ。  カナタの背に腕を回したツカサには、示された動揺が文字通り手に取るように分かった。  だが、ツカサはカナタのことを揶揄いはしない。 「……図星なんだ? 寂しい思いさせてごめんね、カナちゃん」  ポンと、あやすような手つきで背を撫でられる。  そうされると、就業時間中に抱いていたモヤモヤが、まるで霧のように晴れていった。  ──しかし。  ──重たく濁ったモヤモヤは、すぐにまた我が物顔をしてカナタの胸を占めてしまう。 「ホンット、カナちゃんは可愛いなぁ」  ──ツカサの、一言によって。  反射的に、カナタはツカサの胸を押し返した。  特段、強い力で抱擁し合っていたわけではない。  すぐに二人の間には、腕一本分の距離が空いた。 「……カナちゃん? どうかした?」  抱き着かれたかと思いきや、唐突に距離を取られたのだ。突き放された理由が分からず、ツカサが心底不思議そうな表情を浮かべるのも道理だろう。  そんなツカサの顔を、カナタは直視できなかった。  黒く重たいものが、ドロドロと胸の内から溢れる。  浮かれ、弾んでいた心が、暗く深いところにまで沈んでいく。  熱くなっていた頬も、今ではその熱を忘れている。  紡ぎたかったはずの甘い言葉も、まるで重しを付けられたかのようにどこかへと落ちて行ってしまった。  それはさながら、翼をもがれた鳥のようで。 「……それは、オレが年下だからですか?」  それは、まるで。 「それとも、オレに気を遣っているんですか?」  とても醜いものに成り果てたようにも思えて。  カナタの視界は、ジワリと滲んでいった。

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