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それが浅ましく、迷惑なのだとハッキリ理解したのは。
……ほんの少しだけ、落ち着きを取り戻した後だ。
「……あ、っ。オ、レ……っ」
顔を覆っていた手を、ゆっくりと下ろす。
黙り込んだツカサを見上げることもできず、カナタは素早く頭を下げた。
「ごっ、ごめんなさいっ! オレ、ツカサさんに迷惑かけたかったワケじゃなくて……っ! 強要、したかったワケじゃないんですっ! ごめんなさいっ! 本当に、ごめんなさいっ!」
悔しくて、恥ずかしくて、惨めで。
自分がこの部屋に立っていることすらもが、間違いのような気がしてきて。
カナタは頭を下げたまま、ツカサからの言葉を待つ。
──呆れでも。
──いっそ糾弾でも、構わない。
どんな言葉でもいいから、カナタはツカサの本心を聴きたかった。
──聴いたうえで、トドメを刺されたかったのだ。
しかし、何秒待ってもツカサからの言葉は降ってこない。
恐る恐る、カナタは顔を上げる。
──そして。
「……っ」
カナタは、言葉を失った。
──さそ、不愉快そうな目を向けられているだろう。
──もしかすると、迷惑そうな顔をさせてしまっているかもしれない。
それでもカナタは、顔を上げた。
覚悟していたカナタの目に、飛び込んできたのは……。
「ごめん、カナちゃん」
ホテルの時と、同じように。
「──嬉しすぎて、なんて言っていいのか分からなかった……っ」
──赤面しているツカサだった。
ツカサはそれだけ言い、突然天井を仰ぎ見る。
「あ~……ッ! カナちゃん、ホンット可愛すぎ……ッ! こんな可愛いカナちゃんが他の誰かの視界に入るのとか、俺マジでイヤなんだけど! ずっと俺のそばにだけ置いておきたい! カナちゃん可愛すぎるってマジで!」
「そ、それって……っ? 閉じ込めるって、意味ですか……っ?」
「なにそれ、監禁ってこと? それはナンセンスだって」
ツカサは天井を仰ぎ見たまま、両手で顔を覆い始めた。
「あのね、カナちゃん。俺はカナちゃんの自由意思を尊重しているんだよ。それなのに監禁するなんてことはしません。それは、カナちゃんの意に反しているでしょう?」
「え、っと。……はい。いや、です」
「だから、監禁なんて考えたことないよ。……それにさ、カナちゃん」
ツカサの視線が、天井からカナタへ向けられる。
その顔にはもう、朱色は差されていなかった。
……むしろ。
「──監禁なんかしなくても、カナちゃんは俺のことを一秒も欠かさず、ず~っと考えてくれているよね?」
堂々と、自信に満ち溢れた色しかない。
ツカサはカナタの腕を引き、もう一度抱き寄せた。
今度は意図的且つ、強引に。
「俺に『好き』って言われなくて、不安だった? 俺に『可愛い』って言われるだけじゃ、心配だった?」
「……っ」
「ムシしないで答えてよ、カナちゃん。じゃないと、俺もカナちゃんの気持ちをムシするよ」
ほんの少しだけ、ツカサの声が低くなる。
途端に不安感を煽られたカナタは、慌てて数回頷いた。
すると、カナタの頭上からツカサの笑い声が降り注ぐ。
「あはっ! そっか、そっかぁ! カナちゃん、俺のこといっぱい大好きなんだねぇ?」
「そっ、う……です、けど……っ。駄目、ですか?」
「素直だなぁ! ……ウン、全然ダメじゃない。そんなところも凄く可愛いよ」
贈られた言葉に、カナタは思わず拗ねたような表情を浮かべた。
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