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──自分は今、振られたはず。
けれど、ツカサはまるで『振っていない』と主張するような言葉を紡いできた。
と思いきや、突然ドレスの話をしてきたのだ。
「オレ、話が分からなくて。ツカサさん、あの……っ?」
カナタの困惑は当然だろう。
「良かった。カナちゃんが、そう答えてくれて」
強い抱擁を続けたまま、ツカサはカナタの耳元に唇を寄せる。
吐息が、カナタの耳朶をくすぐった。
「ツカサ、さん?」
近付いた距離に、カナタの胸はどうしようもなく騒ぎ始める。
振られたはずで、振られていなくて。
だけど『好き』とは、言ってもらえないのでは……。
戸惑うカナタの耳元に、ツカサの唇がある。
そのまま、ツカサは甘く囁いた。
「──飽きるくらい着させてあげるから、俺と結婚して」
──ゾクリ、と。
カナタの胸が、ツカサの言葉によってザワついた。
「俺と結婚してくれるなら、華奢で可愛いティアラも用意してあげる。式場もうんと可愛く飾ってもらうし、切っちゃうのがもったいないくらいフワフワで可愛いケーキも用意する。カナちゃんが履きたいなら、ガラスの靴だって何個でも用意するよ。カナちゃんが『欲しい』って言うなら、ウェディングドレスの買い取りだってする。カナちゃんが欲しいと思うもの、可愛いと思うものを生涯かけて贈り続けるし、カナちゃん自身を幸せで溺れさせることも約束する。他の誰かじゃなく俺だけが、カナちゃんの生活に変わらず寄り添い続けるよ」
「あ……っ」
「だから、俺と結婚して【カナタ・ホムラ】になってほしい」
矢継ぎ早に降り注ぐ、ツカサの本心。
いつの間にか、カナタの両目から溢れる涙は止まっていた。
「俺は、カナちゃんに『好き』って言っていない。……カナちゃんが求めるような『好き』を言えないし、今後も言える自信がない。俺のカナちゃんに対する気持ちは、そんな可愛い言葉じゃ済まないんだよ。俺は、カナちゃんの全部が欲しい。カナちゃんの望むものを全てあげるから、俺にはカナちゃんだけをくれてほしい。カナちゃんだけが、俺の全てだから」
カナタの頬を濡らしていた雫を、ツカサは指で拭う。
カナタには、ツカサの言葉が正しく届いていない。
【好き】の種類を、カナタは多く知らないのだ。
そのせいか、ツカサの目は、どことなく寂しそうだ。
「それでも、俺はカナちゃんに『好き』って言っていいの? カナちゃんが求める【好き】と俺の【好き】は、全然違うのに?」
濡れていた頬に、ツカサの唇が触れる。
しかしなぜか、顔を離したツカサの目にはもう、寂しさは帯びていなかった。
「カナちゃんが許してくれるのなら、俺は今すぐ言えるよ。今すぐ、聞き飽きてしまうくらい言えるよ」
抱擁を解いて、ツカサはカナタの前で跪く。
そして、カナタの手をそっと握る。
──そのまま。
「──好きだよ、カナちゃん。俺は俺が持てる全てのものを懸けて、カナちゃんを幸せにする。……だからこれから先、俺以外の人とは幸せにならないで。俺以外を選ばず、俺だけを見て、俺とだけ幸せになってほしい」
──ツカサは、カナタが泣いて求めた【言葉】を、ツカサなりの意味合いを込めて贈った。
確かにその言葉は、カナタが求めた【好き】とは違うのだろう。
カナタが求めたものは、欲した言葉は【今現在】のみだったのだから。
けれど、ツカサが捧げたのは【今現在】だけではなく【今後カナタを取り巻く未来すらをも含む全て】だ。
【今現在】の言葉を口にするだけで泣きじゃくったカナタとは、覚悟が違う。
どうしたって、ツカサはカナタにはなれない。
そしてどうしたって、カナタはツカサのようにはなれないのだ。
それなのに、カナタは不思議な心地だった。
「──俺と、結婚してくれますか?」
薬指に、ツカサは触れる程度のキスを落とす。
それは純情なカナタのことを想った、ツカサなりの愛情表現だった。
その対応に、カナタは……。
「──不束者、ですが……っ」
涙を溢れさせて、静かに頷いた。
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