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 それは、ツカサにとって初めての出会いだった。  その日、マスターから『新しい住人が来る』とは聞いていたのだが、ツカサは特段関心を抱いていなかったのだ。  今後関わるであろう他人のうちの、一人。  外を歩いて擦れ違う他人を意識しないのと、全く同じ。  ツカサはなんの期待もせず、やって来たばかりの住人へ挨拶に向かった。  そこで、ツカサは初めての感情を抱く。 『──あれ? 引っ越し、今日だったっけ?』  こんな茶番を演じてしまうほどに、衝撃的だったのだ。  玄関扉が開いた瞬間に、ツカサは新しい住人と目が合った。  あちらがツカサを認識した時の、その【目】が。 『……っ』  ──ツカサに対する【畏怖】と【恐怖】の目に。  ──ツカサは、一瞬で【運命】という言葉の意味を理解した。  それはツカサにとって、初めての経験。  ──初対面時にマイナスの好感度からスタートされたのは、初めてだったのだ。 『あっ、え……っと』  恐怖心を剥き出しにし、露骨なまでにツカサを警戒するその姿に。 『初めまして。俺はツカサ・ホムラ。この平屋に住んでいるから、同居人ってことになるのかな。……これから、よろしくね』  ツカサは、一秒でも早く触れたくなった。  伸ばした手は、ツカサにとっては一種の賭けだ。  握手を求めて、応じられなかったのならば、彼の【運命】が自分ではない可能性も視野に入れよう。  この段階ではまだ、ツカサにも理性があった。  だが、しかし、もしも……。  ──もしも、握手に応じてくれたのならば。 『はじめ、まして。……オレは、カナタ・カガミです』  どことなく華奢な手に触れた、その瞬間。  ツカサは自分でも驚くほど、優しい笑みを浮かべてしまった。  握手に応じてもらえなかったのならば、身を引くことも考えてあげよう。  しかし、もしも握手に応じてもらえたのならば……。  ──絶対に、手放したりはしない。  ──誰にも、欠片ばかりでも渡してなるものか。  ツカサは心に誓い、そして決めた。  ──カナタ・カガミという少年と、生涯添い遂げると。  ──カナタ・カガミという少年を、一生幸せにすることを。  ツカサは他の誰でもない、自分とカナタに誓ったのだ。  いつかもしも、誰かから『カナタを好きになったきっかけは』と問われても、ツカサはうまく言語化できないだろう。  ただただ、本能に従っただけ。  そしてその本能を、カナタが【握手に応じる】という形で受け入れてくれたから。  ツカサはカナタに、運命を感じていた。  確信とも取れるほどの本能で、カナタを求め続けたのだ。  だからこそ、先日……ツカサは、大いに戸惑った。 『オレは、ツカサさんと両想いになりたいんです……っ!』  泣きながらそう懇願されて、嬉しさよりも先に。  ──ツカサは咄嗟に返せる言葉が出てこない自分自身に、戸惑った。  カナタの気持ちを手に入れて、嬉しいはずなのに。  カナタが感情を爆発するほど愛してくれて、嬉しくないはずがなかった。  それでもツカサは、戸惑ったのだ。  どれだけカナタが『好き』と言ってくれても、ツカサが感じた【運命】とは、同じじゃない。  そんなこと、ツカサ本人が一番よく知っている。  あの時、ツカサはカナタに『好き』と返したけれど、本当は違う。  ツカサの気持ちは、カナタが告げる【好き】とは全く別種のもの。  カナタが向けてくれる、温かくて優しい恋情とは、全く異なる感情。  しかしそれを、ツカサはうまく言語化できなかった。

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