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 カナタと両想いになって、数日後。 「んっ、あぁ、あっ! ツカサさん、ふか、い……っ!」  ツカサはカナタの部屋で、カナタのことを犯していた。  シーツの海に沈むカナタはいつだって煽情的で、愛らしい。 「あっ、んあっ、はっ! やっ、イく、イ──ふ、ぁあっ!」  淫らに喘ぎ、はしたなく果てるその姿も、胸が締め付けられて仕方がない。  ツカサに比べると小ぶりな性器すらもが、全てツカサの理想通りで。  きっと【理想】という言葉は、カナタのために用意されたものなのだろうと。  そう本気で思うほど、ツカサはカナタに傾倒していた。 「カナちゃん、可愛い……っ」  可愛くて。  大切で。  絶対に、手放したくない。  絶頂を迎えて放心状態のカナタを見て、ツカサは一言では言い表せない感情を抱く。  カナタの笑顔が見たいのに、その先にあるものが自分ではないのならば、その笑顔をバラバラになるまで切り刻みたくなる。  カナタの声を聞くだけで胸が弾むのに、その舌が別の誰かを呼ぶのならば、根を残さないほど完璧に引き千切りたくなった。  手も足も、向かう先がツカサではないのならばへし折りたい。  映すものはツカサだけでいい瞳も、他の誰かを映すために使われるのであれば、えぐり取って宝石のように大切にしてしまえたらと。  ツカサ以外の音を求める飾りのような耳も、いっそそぎ落とした方が良いのではないかとも。  どうしようもないほどの庇護欲と、抑えきれないほどの破壊欲も、ツカサにとってはどれも本物で。 「ツカサさん……っ。大好き、です……っ」  だからこそツカサは、カナタの【好き】に手放しで【好き】を返せない。 「ありがとう、カナちゃん。世界で一番可愛いよ」  きっとカナタは、こんな感情を抱いたことがないのだろう。  そんな相手が口にする想いと、ツカサの想いが同じわけがない。  それでもカナタは、自らを犯す男を見上げて、唇を尖らせる。 「……『好き』って、言ってほしいです」  その言葉が、どれだけ清廉潔白で無垢なものかも知らずに。 「そうだね、ごめん。……好きだよ、カナちゃん」  この言葉が、どれだけの狂気を内包しているかも知らずにだ。  満足げに微笑むカナタの膝を、ツカサは持ち上げる。 「まだ足りない。カナちゃんが、もっと欲しい。……欲しいよ、カナちゃん」  それは、性欲からくる言葉ではない。  ましてや、カナタの世界にある【愛】からくる言葉でもなかった。  ツカサは文字通り、カナタの全てが欲しいのだ。  ──体も、心も、過去も現在も未来も、全て。  しかし、カナタの世界にはツカサが告げる感情が言葉として存在しない。  それをカナタは、自身が知る一番近い言葉で返すのだ。 「オレも、ツカサさんがほしい……っ。もっと、ほしいです……っ」  交わっているようで、本当は違う。  カナタとツカサは、一生交わることのできない存在だ。  どれだけ愛し合い、どれだけ体を重ねても、二人は決してひとつにはなれない。  そんなこと、ツカサは疾うの昔から気付いている。  カナタと握手をしたあの日から、ツカサは知っているのだ。  それでもツカサは、カナタのことが手放せない。  今後どれだけ言葉を交わしても、カナタには理解されないと分かっているのに。  ツカサはどうしたって、カナタを手放すことができないのだ。

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