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ツカサにとってはただの【儀式】だったセックスにも、ようやく意味が見え始めた。
それは、カナタを抱いて初めて知ったことだ。
「カナちゃん……っ」
肉壁を押しのけ、強引に内側をこじ開ける。
男同士では一切の生産性がない行為だというのに、ツカサはカナタを相手にしてやっと意味を見出したのだ。
「ぁあっ、あ……っ! ツカサ、さん、っ!」
今この瞬間は、カナタの思考を独り占めできている。
ツカサが抱いている限り、カナタは誰にも盗られない。
ツカサは文字通り、カナタを犯しているのだ。
カナタの腰を掴み、強引に何度も男根を差し穿つ。
そうすると、カナタは歓喜に体を震わせた。
「んぁ、あっ! はぁ、あ、ぁんっ!」
初めは恐怖と戸惑いを抱いていたカナタも、今ではツカサと交わすセックスの虜だ。
「もっと、もっと……っ! 奥、もっと突いて──あぁ、っ!」
圧倒的に、同意の上での行為。
「ツカサさん、ツカサさ、ぁ、はぁ、んっ!」
その優越感が、ツカサを堪らなく興奮させた。
……仮にカナタが性的欲求を一切持たない男だったとしても、ツカサはカナタを抱き続けていただろうが。
とどのつまり、ツカサはカナタがカナタで在る限り、なんでもいいのだ。
自分の趣味嗜好が異常だと思い、怯えていたっていい。
──そんなものでは、あの日感じた【運命】は傷付かない。
内気でも、頼りなくても、情けなくても、弱くても。
──どれだけ脆弱な男であったとしても、あの日感じた【運命】は損なわれない。
カナタがカナタで在るのなら、それで良かった。
──カナタがカナタで在る限り、あの日感じた【運命】は失くならないのだから。
ふと、ツカサは違和感に気付く。
カナタがツカサに向けて、下半身を押し付けているのだ。
恥ずかしがり屋なカナタの性格を考えると、おそらく無意識だろう。
男としては浅ましく、はしたなく後孔への快楽を求めるところも、ツカサにとっては庇護欲の対象だった。
だからこそ、ツカサはカナタとのセックスが好きなのだ。
「カナちゃん、可愛い……っ。俺のこと、本当に大好きなんだね」
多少乱暴に犯しても、カナタは悦ぶ。
普段ならば、ほんの少し暴力的なことを口にしただけで怯えるというのに。
「ぁ、あっ、好き、好きです、好き……っ! ツカサさん、大好き……っ!」
向けられる愛情が、なによりも嬉しい。
たとえその感情がツカサの抱く感情とは全く異なっていても、それでもツカサは嬉しかった。
「うん、嬉しい。凄く嬉しいよ」
一呼吸置いて、ツカサは舌の根から無理矢理言葉を引きずり出す。
「……俺も、カナちゃんが好きだよ」
あまりにも身に馴染まない、美しすぎる言葉。
この言葉はきっと、人間に許された言葉なのだろう。
もしもそうなのだとしたら、ツカサが口にしていいはずがない。
ツカサはずっと、人として大切なネジを失っている。
そんな自分が、誰よりも優しい存在であるカナタと同じ言葉を遣っていいはずがない。
それでも、ツカサはこの言葉を紡ぐ。
「大好きだよ、カナちゃん。なによりも、カナちゃんが一番好き」
人のフリをして、舌の先へと言葉を転がす。
そうすると……。
「うれ、しい……っ。嬉しいです、ツカサさん……っ」
大切な人が、微笑んでくれるのだから。
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