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 カナタとの関係は、順風満帆。  このまま近いうちに籍を入れ、永遠の愛を誓い、いつかマスターが亡くなった後にはきっと、二人で幸せに暮らしていける。  そんな、どこか確信めいた希望を胸に、ツカサは翌日も普段と変わりない生活を送った。  カナタのために朝食を用意し、まかないとして昼食も用意。  閉店の片付けを手早く終えた後、夕食の用意もした。  休憩時間中には掃除や洗濯などの家事もこなし、浴槽にお湯も用意済み。  久し振りにカナタと入浴しようかと思っていた、夕食後のこと。 「さて、と。ワシは風呂にでも入ろうかのう」  新聞の夕刊を読み終えたマスターがそう言い、椅子から立ち上がった。  ──ダイニングで、カナタと二人きりになれる。  そう思いソワソワし始めたツカサは、いつも通り頬杖をつきながらカナタを見つめていた。 「お風呂の準備は終わったよ。早く入っちゃって。じゃあね、おやすみ」 「せめてこっちを見ぬか!」  マスターがギャンと吠えるが、ただの高血圧だろうと思い、ツカサは華麗にスルー。  そんなことにかまける余裕があるのなら、カナタの頬をつつく方が比較にもならないほど有意義な時間だ。 「横顔も可愛いなんて、カナちゃんは本当にズルい子だね。まさか今以上に俺の心を奪おうとするなんて、正直畏れ入ったなぁ……っ。これ以上俺を夢中にさせて、カナちゃんは俺をどうしたいの?」 「お主、包み隠さなくなってきたのう」  うっとりとカナタの横顔を見つめていると、またしてもマスターが口を開く。……しかし当然、ツカサはスルー一択。  照れたように俯いた後、カナタはパッと顔を上げた。 「あの、マスターさん。少しだけ、お話してもいいですか?」  意外にも、カナタがマスターを引き留めたのだ。  ──二人きりになれる機会だというのに、どうして?  とは、訊ねない。  もしかすると、カナタなりの【焦らし】なのかもしれないと思ったからだ。 「おぉ、構わんぞ。どうした?」  マスターは椅子に座り直し、カナタとテーブルを挟んで目を合わせる。  ──恋人同士を二人きりにさせないとは、なんて空気が読めない老人なのだろうか。  ……とも、当然言わない。ツカサが口を挟んだ分だけ、マスターがいなくなるまでの時間が長くなるからだ。  それよりも気になるのは、カナタの話だった。  マスターと同様に、ツカサもカナタの言葉を待つ。  カナタは指先を膝の上で合わせながら、一度だけ俯く。  そして、顔を上げた時。 「制服のことで少し、相談があるんです」  マスターとツカサが想像もしていなかったことを、カナタが口にしたのだ。  それは、ツカサも初耳の話だった。  制服の新調、という意味なのか。  ……しかし、それは考え難い。  なぜならカナタの制服はほつれていないし、サイズが合わなくなったわけでもないのだ。  カナタの制服を管理しているのは、家事の全てを強引に担っているツカサだった。  ほつれているのならばすぐに気付き、そして即座に直せる。ゆえに、制服には問題がない。  そうなると制服を着ているカナタ側に問題があるということになるが、それも考え難い。  カナタが太ることは、まずありえない。  カナタの体型管理は万全だ。それは外見だけではなく、内臓に至るまで。  痩せさせもしないし、太らせもしない。  ツカサはカナタの運動量などから消費カロリーを把握し、適切な食事を提供しているのだから。  ……ならば、いったいどういった相談なのか。  ツカサはほんの少し目を丸くしたまま、マスターと対峙するカナタの横顔を眺めた。  そして、カナタは口を開く。  ──それは。 「──オレの、制服。……ネクタイを、リボンに変えちゃダメですか?」  ──ツカサが、最も恐れていたことへの第一歩だった。

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