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 カナタがチョコを食べ進めて、数分後。  ──事件が起こった。 「──ツカサさんって、どうしてそんなにカッコいいんですか?」  カナタの目が、とろんと蕩けている。  ぽぉっと見惚れているかのような瞳で、カナタは隣に座るツカサを見つめているのだ。  最初は、単純に『珍しく甘えてくれているのだろう』と思っていた。 「恋人の目にそう映っているのなら、俺としては光栄だね。もっと見つめてもいいよ?」  だからこそツカサは、普段と変わらない態度でカナタに接したのだ。 「だけどカナちゃんだって、凄く可愛いよ。それはどうして?」  そっと、ツカサはカナタの頬に手を伸ばす。  ──その時だ。 「カナちゃん? なんだか、顔が熱いけど。……もしかして、風邪?」  カナタの異変に、ようやくツカサが気付いたのは。 「熱い、ですか?」 「うん。ほんのり汗もかいてない?」  添えられたツカサの手に、カナタは頬を擦り寄せる。 「ツカサさんの手、冷たくて気持ちいい……っ」  目を細めてそう囁くカナタは、愛らしい。  けれど、今はカナタを愛でている場合ではないのだ。 「大丈夫? 今日は早めに寝た方がいいんじゃないかな?」  そう言い、カナタの頬から手を離した瞬間──。 「──離れちゃ嫌です」  カナタが、泣きそうな顔をしてツカサを見つめた。 「もっと、触ってください。ツカサさんに触ってもらえたら、きっと良くなると思いますから」 「でも──」 「ツカサさん、お願い……っ」  ──まさか、と。  ツカサはここで、ようやく気付いたのだ。 「──カナちゃん、もしかして……酔って、る?」  キョトンと、カナタは目を丸くする。  その目はやはり、どことなく潤んでいるようで、据わっているようで。 「どうしてそう思ったんですか?」 「だって、カナちゃんらしくないことを言うから」 「それって、変ってことですか? 悪いって意味ですか?」  カタン、と。  カナタは椅子から立ち上がり、ツカサに近寄った。 「人のぬくもりを求めることは、悪いことなんですか?」  カナタの指が、ツカサの肌を服の上からなぞる。 「恥ずかしがるようなことで、罪なんですか?」  どこか蠱惑的な声で、カナタはツカサと距離を詰めた。 「もしも、そうなのでしたら。……じゃあ、どうして人は生まれてきたんですか?」  カナタはそう言い、ツカサの膝に座る。 「ツカサさん、好きです。だから、お願いします。もっと、オレに触ってください」  ウイスキーボンボンを食べて、様子がおかしくなる人。  そんな人がマスター以外に、現実世界にいるだなんて。 「オレのドキドキ、ツカサさんに知ってほしいんです……っ」  ツカサは本心から、思っていなかったのだ。  自身に迫るカナタを見て、ツカサは動揺する。  もしも酔っ払って、いつもと違うカナタを見られるのなら。それはそれでラッキーだとは、確かに考えていた。  だがまさか、それが実現し。 「触って、ツカサさん。オレのこと、いっぱい……その手でいっぱい確かめて、いっぱい可愛がってください」  あまつさえ、こんな変貌を遂げるだなんて。  ツカサは本当に、毛ほども考えていなかったのだ。

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