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 数名の女性客は、ヒソヒソと小声で話をしている。  表情から察するに、カナタとツカサのやり取りに歓喜しているようだ。  おそらく女性客は、リンと似た嗜好を持っているのだろう。 「あっ、あのっ、ツカサさん。少し、恥ずかしいです……っ」  なんとか声を上げると、ツカサは振り返らずに淡々と言葉を返す。 「『少し』? なら、別にいいでしょ?」 「っ! ……訂正しますっ。『少し』じゃなくて『だいぶ』ですっ」 「ふぅん? そうなんだぁ?」  すると、ツカサの手がカナタから離された。  しかしそれはカナタの要望を聴き遂げたわけではなく、単純に空いている席まで案内し終えたからだ。  だが、なんにせよひと段落したのには変わりない。カナタは一瞬、本気でそう考えた。  しかし相手は、たった数時間とは言えカナタを|断《た》っていたツカサだ。 「こちらの席にどうぞ?」  そう言い、ツカサは仰々しく椅子を引いた。  これでは【お客様】と言うよりも【お姫様】扱いだ。  再三言うが、カナタは可愛いものが好きなだけで、決して女の子になりたいわけではない。  プリンセスに憧れがあったとしても、それはドレスだけ。  つまり、こうしたツカサの行動には純粋な【困惑】しか生まれない。 「ツカサさん、こういう女の子扱いは──」 「【女の子扱い】じゃなくて、俺のは【特別扱い】だけど?」 「……ずるい、です」  しかし、どうしたって最後にはツカサへの気持ちを深めるだけ。  カナタは赤い顔を隠すこともできず、引かれた椅子に座る。  すると当然、ツカサの手によってそっと、椅子の背が押された。  周りの女性客が「キャーッ!」と、黄色い声を上げている。  リンは相変わらず、指の隙間からカナタとツカサのやり取りを見ていた。  厨房にいるマスターは──怖くて、カナタには確認できない。  ツカサはカナタの背後に立ち、そのまま突然、距離を詰めた。 「はい、メニュー表」  カナタにメニュー表を手渡すため、身を乗り出したのだ。  またしても、女性客が色めきだった声を出す。  これでは、まるでコンセプトカフェだ。思わず、カナタはそう考えてしまう。  しかもよく見ると、周りにいる女性客はカナタも何度か見たことがある人ばかり。  つまるところ、周りにいるのは【常連客】ということ。  そしておそらく、カナタの読みが間違えていなければ【ツカサのファン】だ。  仮に読みが間違えているとしたら、周りの女性客は全員、リンと同じ嗜好なのだろう。  どちらにせよ、この状況がカナタにとって【恥ずかしい状況】だということに変わりはないが。  今後彼女たちの接客をする場合、カナタはいったいどんな顔をしたら良いのか……。 「ツカサさん、あの……っ」 「どうかした?」 「近い、です……っ。ツカサさんは他のお客さんに、こんなことしませんよね?」  カナタにしては、なかなか攻めた方だ。  しかし、いつだって結果は同じ。 「ウン、しないよ? だって俺、さっき言ったでしょ? カナちゃんのことは【特別扱い】しているって。【お客様扱い】じゃないんだよ」  カナタはどうしたって、ツカサには勝てないのだ。

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