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いったい、どうしてしまったのだろうか。
たった数時間会えなかっただけで、こんなにもツカサが不足してしまうなんて。
カナタは今日、寂しくて仕方なかった。
ツカサに会いたくて、ツカサのそばにいたくて。
普段が普段なだけに、カナタは今日という一日を耐えられなかった。
ツカサに数歩近付いて、ジッと顔を見つめる。
カナタの頬が赤らんでいることくらい、ツカサにはお見通しだ。
それでもカナタは、ツカサの腕をそっと掴む。
それから背伸びをし、ツカサの頬にキスをした。
「オレも、ツカサさんとイチャイチャしたいです。……だから。オレに、もっといっぱい、かまってください……っ」
迷惑千万な話だ。
一人のお留守番も満足にできず、年上の彼氏にベタベタと甘えている。
当然、カナタは自分自身が恥ずかしかった。
けれど、ツカサはと言うと……。
「──モチロン。カナちゃんがそう望むのなら、喜んでっ」
そんなカナタを、疎むはずがない。
忌むわけもなく、ましてや敬遠するはずもなかった。
ツカサは心底嬉しそうに微笑み、カナタの服に手を掛ける。
冷えた指が、カナタの素肌に触れた。
そんなことすらもが嬉しくて、カナタは目を細める。
「ツカサさん……っ。大好き、です……っ」
「ウン、嬉しい。……俺も、カナちゃんが大好きだよ」
上着を脱がされたカナタは、そのままツカサにキスをされた。
「ん、っ。……んん、っ」
深い口付けに、カナタの心は驚くほど単純に満たされる。
ツカサの唇が離れると、カナタは露骨に悲し気な表情を浮かべた。
「あ、っ。……もっと、キス……っ」
「キスもいいけど、このまま脱衣所にいたら冷えちゃうよ?」
「だけど、もっとしてほしいです……っ」
「困ったなぁ。俺、カナちゃんからのおねだりに弱いんだよ」
顎を掬われ、そのままもう一度キスが贈られる。
カナタは目を閉じて、ツカサからのキスを余すところなく堪能し始めた。
「ん、っ。ふ……ぁ、んっ」
ツカサの指が、カナタの背を這う。
冷たい指の感触に、カナタの体がすぐに悦びを見出す。
……ツカサとカナタが、出会ったばかりの頃。
初めはどこか、その冷たい感触が恐ろしかったのかもしれない。
だが、今ではどうだろう。
「カナちゃん、愛しているよ」
頬を撫でる、冷たい手のひらも。
どこか他の人とは違う、その眼差しすらもが。
──カナタには、愛おしくて堪らない。
「オレも、ツカサさんが大好きです……っ」
愛を返した後、カナタはツカサの首に腕を回す。
それから、甘えるようにキスをした。
「好きです、ツカサさん……っ」
甘い口付けの音が、脱衣所に響く。
それが恥ずかしいはずなのに、どこか嬉しくて。
やはり、自分はどうにかなってしまったのかと。そう、カナタは心のどこかで考えてしまう。
……だが、それでも良かった。
「嬉しいよ。凄く、嬉しい」
どうにかなってしまったカナタのことも、きっとツカサは受け入れてくれる。
ならばなにも、憂うことはない。
臆することも、怯えることもないのだ。
二人はもう一度だけ、どちらからともなくキスを交わす。
数時間前までの寂しさが嘘のように、カナタの心は満たされていった。
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