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肌を撫でる湯の感触にさえ、敏感になりそうで。
カナタは少しずつ、自分が『おかしくなっているのでは』と疑い始める。
「こんなに、気持ち良くなっちゃったら……っ。オレ、もう……ツカサさんから、離れられなくなっちゃいます……っ」
涙交じりの声で、カナタはそう囁く。
それでもカナタは、動きを止めない。
何度も何度もツカサの逸物を自身に出入りさせながら、カナタは甘えるように恋人へと抱き着く。
「ツカサさんへの『好き』が、いっぱいで……ん、っ! ……オレが、オレじゃなくなるような……そんな、感じがして、ぇ……っ! オレ、少しだけ……こわ、い……っ」
──情けない。
好きなものを『好き』と言えるようになったことが、誇らしいのに。
いざその【好き】が自分でも制御不能になりそうなほど大きくなると、恐ろしいなんて……。
それでも、手放すことはできないことが分かっているのに。
「ツカサさんっ、ツカサさん……っ! 好きです、大好き、好きなんです……っ! 大好き、好き……っ!」
色々な感情がないまぜになったまま、カナタはその感情全てをツカサにぶつけてしまう。
すると、ツカサの手がカナタの頬を撫でた。
そのままツカサは、カナタの唇にキスをする。
「ん、ふ……ん、ぅ」
ツカサからの口付けに、カナタは一度、抽挿を止めた。
しっかりとツカサに腕を回し、与えられる口付けに甘える。
ツカサが唇を離したときには、なぜだかカナタの視界は滲んでいて……。
それでも、カナタの目にはしっかりとツカサの顔が映っている。
「──俺はカナちゃんがおじいちゃんになっても、おばあちゃんになっても。その後だってずっと、カナちゃんの隣に在り続けるよ」
そう言って微笑む、ツカサの顔が。
空いていたツカサの手が、おもむろにカナタの逸物を握る。
突然施された愛情に、カナタはビクリと体を震わせた。
「ひあっ!」
「凄く硬いね。……もしかして、いつもより興奮してる?」
「わか、な……あ、っ!」
「嬉しいよ、カナちゃん。カナちゃんが、そんなに俺を好きでいてくれるのが」
ツカサの手は、カナタの逸物を愛おしそうに撫でる。
「俺も、カナちゃんが好き。カナちゃんが想像している以上に、俺はカナちゃんを想っているよ。だから、今日のカナちゃんのなにもかもが、嬉しい」
「あぅ、う……ん、っ!」
「これだけじゃ、もどかしい? カナちゃんはもっと、俺からなにかがほしいのかな?」
カナタはコクリと、素直に頷く。
そうすると、ツカサからはもう一度キスが贈られた。
「いいよ、あげる。カナちゃんが欲しいものは、俺がなんでもあげる。……だから、カナちゃんの全部を俺にちょうだい? 俺を好きって気持ちも、そんな自分が恥ずかしい気持ちも、不安だって気持ちも全部。全部、俺にちょうだいよ」
ツカサの眼差しに、カナタの胸はキュッと切なくなる。
──嗚呼、なんてズルい人なのだろう。……と。
カナタは思わず、最愛の恋人に対して思ってしまう。
カナタの温かな気持ちも、冷たい気持ちも、暗い気持ちも、全て。
その全てを受け止めたうえで、ツカサは囁くのだ。
「──大好きだよ、カナちゃん。カナちゃんの【全部】が、俺は大好き」
カナタが欲しくて堪らない言葉を、この男は囁く。
だからカナタは、ツカサから離れられない。
だからこそカナタは、ツカサに溺れていくのだ。
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