174 / 289

9 : 23 *

 肌を撫でる湯の感触にさえ、敏感になりそうで。  カナタは少しずつ、自分が『おかしくなっているのでは』と疑い始める。 「こんなに、気持ち良くなっちゃったら……っ。オレ、もう……ツカサさんから、離れられなくなっちゃいます……っ」  涙交じりの声で、カナタはそう囁く。  それでもカナタは、動きを止めない。  何度も何度もツカサの逸物を自身に出入りさせながら、カナタは甘えるように恋人へと抱き着く。 「ツカサさんへの『好き』が、いっぱいで……ん、っ! ……オレが、オレじゃなくなるような……そんな、感じがして、ぇ……っ! オレ、少しだけ……こわ、い……っ」  ──情けない。  好きなものを『好き』と言えるようになったことが、誇らしいのに。  いざその【好き】が自分でも制御不能になりそうなほど大きくなると、恐ろしいなんて……。  それでも、手放すことはできないことが分かっているのに。 「ツカサさんっ、ツカサさん……っ! 好きです、大好き、好きなんです……っ! 大好き、好き……っ!」  色々な感情がないまぜになったまま、カナタはその感情全てをツカサにぶつけてしまう。  すると、ツカサの手がカナタの頬を撫でた。  そのままツカサは、カナタの唇にキスをする。 「ん、ふ……ん、ぅ」  ツカサからの口付けに、カナタは一度、抽挿を止めた。  しっかりとツカサに腕を回し、与えられる口付けに甘える。  ツカサが唇を離したときには、なぜだかカナタの視界は滲んでいて……。  それでも、カナタの目にはしっかりとツカサの顔が映っている。 「──俺はカナちゃんがおじいちゃんになっても、おばあちゃんになっても。その後だってずっと、カナちゃんの隣に在り続けるよ」  そう言って微笑む、ツカサの顔が。  空いていたツカサの手が、おもむろにカナタの逸物を握る。  突然施された愛情に、カナタはビクリと体を震わせた。 「ひあっ!」 「凄く硬いね。……もしかして、いつもより興奮してる?」 「わか、な……あ、っ!」 「嬉しいよ、カナちゃん。カナちゃんが、そんなに俺を好きでいてくれるのが」  ツカサの手は、カナタの逸物を愛おしそうに撫でる。 「俺も、カナちゃんが好き。カナちゃんが想像している以上に、俺はカナちゃんを想っているよ。だから、今日のカナちゃんのなにもかもが、嬉しい」 「あぅ、う……ん、っ!」 「これだけじゃ、もどかしい? カナちゃんはもっと、俺からなにかがほしいのかな?」  カナタはコクリと、素直に頷く。  そうすると、ツカサからはもう一度キスが贈られた。 「いいよ、あげる。カナちゃんが欲しいものは、俺がなんでもあげる。……だから、カナちゃんの全部を俺にちょうだい? 俺を好きって気持ちも、そんな自分が恥ずかしい気持ちも、不安だって気持ちも全部。全部、俺にちょうだいよ」  ツカサの眼差しに、カナタの胸はキュッと切なくなる。  ──嗚呼、なんてズルい人なのだろう。……と。  カナタは思わず、最愛の恋人に対して思ってしまう。  カナタの温かな気持ちも、冷たい気持ちも、暗い気持ちも、全て。  その全てを受け止めたうえで、ツカサは囁くのだ。 「──大好きだよ、カナちゃん。カナちゃんの【全部】が、俺は大好き」  カナタが欲しくて堪らない言葉を、この男は囁く。  だからカナタは、ツカサから離れられない。  だからこそカナタは、ツカサに溺れていくのだ。

ともだちにシェアしよう!