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 ウメは温かいお茶を飲みながら、オロオロと狼狽しているカナタを見た。 「カナタのことはシグレから電話とかメールで聴いていたよ。カガミのとこの息子だろう?」  忘れてはいけない。カナタがこの家に住まわせてもらい、マスターが経営する喫茶店で仕事をしているのは両親とムラサメ家のおかげだ。  カナタは急いでパンを飲み込み、ウメを見る。 「はいっ。本当にお世話になって──」 「まぁそれほどでもぉっ?」  さすがに、レスポンスが早い。まだカナタはお礼を言い切っていないというのに。  苦笑を浮かべるカナタを眺めて、ウメも食事を始めた。 「アンタが知っているかは知らないけど、カガミとアタシたちの子供が同い年なんだよ。だから、ちょっと馴染みがあるってことさ」 「そうだったんですね」 「あっ、今のはカナタに言ったわけじゃないからね。カナタの隣に座っている不愛想なイケメンに言ったのさ」  ウメの指摘通り、ツカサの表情は硬いままだ。  仏頂面のツカサはウメに目を向けることもなく、淡々とパンを食べ進めている。 「アンタ、カナタのことならなんでも知っておきたいんだろう? だから、アタシが直々に教えてやったのさ。他にも知りたいことがあるならなんだって教えてあげるよ? ……ほらほら、感謝しなぁ?」 「……ごちそうさま」  ウメの言葉を無視して、ツカサは立ち上がった。そのまま普段と同じように、食器を片付け始める。 「カナちゃんも、早く食べ終えてね。あまり長居をしていると、食欲を失くすような顔が並んでいるんだからさ」 「アンタは本当に素直じゃないねぇ!」 「かつてないほどカナちゃん以外に素直な俺だよ」  そう言いながら、ツカサはカナタの隣に再度、腰を下ろす。  ツカサの行動を見て、ウメは目を丸くした。 「珍しいね、ツカサ? いつもなら、食べ終わったらすぐにここから出て行ったくせに。いったいどうしたんだい?」 「カナちゃんを残して行けないでしょ」 「アンタはアタシたちのことをなんだと思っているんだい、まったく……」  食事を続けるカナタは、頭の中でぼんやりと考える。  確か、ウメはツカサのことを拾った張本人。実の母親と半ば絶縁したツカサを拾い、この家と店に連れて来た女性のはずだ。  だからてっきり、ツカサにとってウメは【恩人】なのかと思っていたが……それにしては、空気が重い。それでいて、硬い気がする。  どうやら二人の関係性は、カナタが想像していたものとはどこか根本的に違うらしい。  すると、不意に。 「……っ」  ツカサの手が、カナタの膝に置かれた。  その手は先ほどとは違い、あまりにも弱い。 「お願いだから、早く食べ終わって……」  まるで、縋るように。弱々しい声で呟いている。  その声は、囁きのようにも感じられた。それほどまでに細く、弱い。  ツカサの態度になにかを感じ取り、カナタは慌ててパンを飲み込む。ツカサが用意してくれていたコーヒーも飲み干すと、ツカサの手がカナタの膝から離れた。  ツカサはすぐにカナタが使っていた食器を片付け、その後、椅子に座っているカナタの手を引いたのだ。 「あっ、あのっ、ツカサさんっ」  呼びかけても、ツカサは振り返らない。  カナタはダイニングに残る二人に「失礼します」と挨拶をしながら、ツカサに手を引かれつつ、ダイニングを後にした。

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