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 連れて行かれたのは、ツカサの部屋だ。  ツカサはカナタを部屋にまで連れて行くと、そのまま扉の鍵を閉めた。 「……ツカサさん、大丈夫ですか?」 「ウン、大丈夫だよ」  虚勢。……端的に言うと、そんな印象だ。  ツカサの言葉を『嘘っぽい』と思ったカナタは、すぐにツカサへ手を伸ばす。 「ツカサさん。オレ、前に言いましたよね。『ツカサさんも、強く在ろうとしないでください』って」 「……っ」 「ここには、オレだけです。他には、誰もいません。だから、なんでも言ってください。オレはちゃんと、ツカサさんの気持ちを聴きますから」  伸ばした手で、ツカサの頬を撫でる。  そうすると、ようやく……。 「──あの人のことは、前から得意じゃないんだよ」  ツカサの瞳がそっと、伏せられた。  カナタの手に頬を寄せながら、ツカサはポツリポツリと呟き始める。 「俺は別に、トラウマ持ちなワケじゃない。過去には女といろいろあったけど、それは正直どうだっていいよ。相手がカナちゃんじゃないのなら、どうだっていい。気にも留めていない」  声には覇気がなく、聞いているだけで心細くなってしまうような音だ。 「だけど、女は得意じゃない。中でも、俺に構ってくる女は特にね」  呟いた後、ツカサはカナタの体を抱き締めた。それは縋るような手つきではなく、どこまでも甘えるように……。  そんなツカサの頭を、カナタはそっと撫で始める。 「あの人に下心がないことは、分かっているよ。あの人はバカだから、思ったことを全部口にする。それは凄く楽だし、だから俺はあの人について来た。あの人に対して、少なからずの感謝だってある。これは、本人には絶対に言いたくないけどね。……これが、俺の包み隠さない本心」 「はい」 「でも、どう接していいのか分からない。そしてたぶん、俺は『分かろうと努力したい』と、思っていない。これもまた本心だけど、俺はウメと極力関わりたくないんだよ。……だけどあの人は、俺を実の息子みたいに扱う。そんな関わり方は初めてだから、困ると言うよりは迷惑。だから、現実と理想の差に参っているんだ。ただ、それだけだよ」  ツカサは、他人が嫌いだ。それはツカサにとっては万人に共通する第一印象で、カナタ以外に対してその認識が改まることもないだろう。  ウメには、感謝をしている。しかし、そこまで。それ以上の感情をツカサは持っていないし、今後も『持ちたい』と思うことはないのだろう。 「カナちゃん以外の人とは、いつだって関わりたくないんだよ。面倒だし、楽しくないし、腹立たしいし……ただの、ストレス。だけどきっと、カナちゃんはそんな俺を『良くないです』って言うでしょう?」 「そう、ですね。ごめんなさい」 「うぅん、いいよ。だって俺は、そんなカナちゃんが狂おしいほどに好きだからね。……だから、俺は変われるように頑張るよ。カナちゃんが変わった先にいる俺は、カナちゃんに見合う男でいたいからさ」  ほんの少しだけ、距離が空く。  顔を見つめられるほど空いた距離に、カナタは思わず笑みを浮かべてしまった。 「ホント、カナちゃんは凄いね。変わるつもりがなくて、むしろ『変わりたくない』とまで思っていた俺を、こんなふうにしちゃうんだから。……ホント、凄い。驚異的なのに、こんなに優しい。ズルいよ、ホント……」  そう呟くツカサもまた、笑みを浮かべていたのだから。

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