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カナタを抱き締めたまま、ツカサは困った様子で呟く。
「でも、すぐには難しいかなぁ。俺の世界にはカナちゃん以外、本当に要らないからさ」
「ふふっ。そういうことも、本当は言っちゃ駄目ですよ?」
「あはっ。カナちゃんに窘められるのは、ちょっと嬉しいかも。もっと叱られたいし、もっと甘えたくなっちゃう」
背に回されていた手が、カナタの頬に添えられる。
「もっと、俺のことだけを考えていて。ウメとマスターの心配なんてしないで、俺の心配だけをしていてほしい。カナちゃんも早く、俺だけのカナちゃんになっちゃってよ」
それは、難しい話だ。しかしカナタは否定をしなかった。
少しずつ調子を取り戻してきたツカサを見て、カナタの胸はポカポカと温かくなる。
「ありがとう、カナちゃん」
「いえ、オレはなにも……」
「俺にとっては大きなことだよ。だから、ありがとう」
そっと、距離が縮まった。それは抱き締めるためではなく、キスをするために……。
「ん、っ」
まさか、突然キスをされるとは。予想外のことに、カナタは思わずくぐもった声を漏らしてしまう。
キスに驚いていると、ツカサの手がするりと腰を撫でる。
「あ、の……っ。ツカサ、さん……っ?」
「俺もさ、若い男なんだよ。好きな子と二人きりで、しかもこんなに密着している。弱っているところを優しくされて、あまつさえ体を触られたんだよ? 色々と持て余すものはあると思わない?」
「『体』って……っ。オレが撫でたのは【頭】ですよ?」
「俺の一部であることには変わりないでしょう? それに、カナちゃんなら俺のどこを撫でてもいいよ。ウメじゃなくて、俺のおっぱいと二の腕でも触ってみない?」
「えっ、あの──わっ!」
カナタの手を掴み、ツカサは自分の胸に押し当てた。
布越しにも伝わる、ツカサの体温。薄い体のカナタからすると、ツカサの体は少しだけ羨ましくなるものだ。
「どう?」
「え、っと……っ。……硬い、です」
「嬉しい?」
「それは、よく分かんな──わっ、わわっ!」
そのまま手を引かれ、カナタはツカサの二の腕を強制的に撫でさせられる。
よくよく思い返してみると、ツカサの二の腕をこうして触ったことはない。新鮮な感覚に、カナタの頬はなぜか妙に熱くなった。
「あれ? もしかして、カナちゃんって二の腕フェチ? それは知らなかったなぁ。じゃあ、今度からはもう少し二の腕をアピールしてみるのも手か……」
「そんなフェチは持っていないです……っ」
「じゃあ、俺の体のどこが一番好き?」
「えっ? えっと……っ。……手、とか。触られると、ドキドキするから……っ」
「そうなの? それじゃあ、いっぱい触ろうかな」
「もう触って……ん、っ」
二の腕を触っていたカナタの手を、ツカサは自身の手で握り締める。
強弱をつけて手を握った後、一本一本全ての指を丹念に撫で、そのまま手のひらを撫でた。
「……っ」
たったそれだけの触れ合いが、なぜだか妙に官能的に思えて……。
カナタは頬を赤らめたまま、小さく体を震わせた。
「そんな反応をされちゃうと、手を出したくなっちゃうよ」
「もう、出ているじゃないですか……っ」
「なら、もっと。……いい、かな?」
「……駄目じゃ、ないです」
どうやらすっかり、いつものツカサになったらしい。
元気を取り戻したツカサは普段通り、カナタに迫る。
「──俺のこと、もっと甘やかして。俺も、カナちゃんを甘やかすから」
囁くツカサに、カナタの体が震えた。
それを【拒絶】という言葉で片付けられないのだから、カナタはやはりどこまでいってもツカサに甘いのだろう。
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