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大きな手が、カナタの体を布越しに撫でる。
「んっ、ぅ……っ。ツカサさん、触り方が……っ」
「なに? どこか、おかしい?」
「触り方が、えっちです……っ」
「そうかな? そう思うカナちゃんがエッチなんじゃない?」
するりと、腰を撫でられた。その手つきはどことなくいやらしく、カナタの胸をさざめかせる。
「それとも、それがカナちゃんの願望?」
ツカサは依然として変わらず、カナタのことを撫で続けながらそう訊ねた。
当然、恥ずかしがり屋なカナタが肯定できるわけがない。……しかし、こうして愛しい恋人に体を触られてなにも感じないほど、カナタは冷めてはいなかった。
「可愛いね、カナちゃん。俺の手に合わせて、体が動いてる」
「あ、っ」
「嬉しいな。無意識でも故意的でも、俺のことを求めてくれるのが」
言葉通り、ツカサは嬉しそうに微笑んでいる。
腰をまさぐっていたツカサの手がふと、カナタの体を抱き締めた。そのままツカサは、難なくカナタの体を抱き上げる。
「ベッド、行こっか」
囁かれたツカサの言葉に、カナタは顔を真っ赤にしながら言葉を失くす。
しかし、当然【拒絶】の二文字はない。カナタはコクリと頷き、そのままツカサに抱き上げられ続ける。
そっとベッドに下ろされると、カナタは恥じらうように膝を擦り合わせた。
まるで初体験に突入するかのような反応に、ツカサはクスクスと笑みをこぼす。
「いつもそんなに意識してくれて、なんだか嬉しいな。俺との行為、まだ慣れない?」
「慣れるとか、そんなこときっと、絶対にないです……っ」
「そうなんだ? ねぇ、それはどうして?」
「それは……っ。ツカサさんのこと、毎日どんどん好きになって……っ。だから、いつもドキドキしちゃいます……っ」
「なにそれ、すっごい殺し文句。俺の頭を撫でるっていう近距離攻撃だけじゃなくて、そんな飛び道具も会得しちゃったなんて……カナちゃんは俺をメロメロにさせる天才だね。そんなところも大好きだよ」
「そう言われると、またもっと好きになっちゃいます……っ」
まるで付き合って三日目のカップルかのようなやり取りにも、カナタはいつも新鮮な気持ちで臨んでしまう。
ポポッと頬を赤く染めているカナタを見て、ツカサもツカサでいつも優しい笑みを向けていた。
「カナちゃんとエッチしたいなぁ。……だけど、今日からウメがいるのか。どうしようかなぁ……」
「ウメさんがいると、なにか駄目なことがあるんですか?」
「ダメってワケじゃないけど、ウメはマスターほど単純な奴じゃないからさ。『カナちゃんのエッチな声を聞かれる可能性があるかも』って思うと、ちょっと気が引ける」
「っ!」
さらに顔を赤くしたカナタに気付いていながら、ツカサは本気で悩んでいるようだ。カナタをベッドに押し倒しておきながら、腕を組んで「うぅん?」と首を傾げている。
このままでは、行為が中断されるかもしれない。しかも今、打開策が提示できないのならば当分の間はセックスがお預けだ。そんなこと、ほぼ毎日ツカサとセックスをしているカナタからすると拷問以上に厳しい状況だろう。
「あの、ツカサさん。……声、我慢します。だから、終わりは嫌です……っ」
しかしそこで、カナタは気付くべきだった。
「カナちゃんも、俺とエッチしたいんだ? 素直にそう言ってくれるなんて、今日は嬉しいことばかりだなぁ」
ツカサがわざとらしいほどに悩んでいた、その理由。
──それは単純に、カナタの口から求められたかっただけなのだと。
そう、カナタは気付くべきだった。
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