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 いくら『カナタに求められたかった』という下心があったとは言え、カナタの声を他人に聞かれたくないという気持ちも本心だ。  ゆえにツカサは、どちらの希望も叶える手法に出た。 「ん、っ。ふ……ぁ、んっ」  カナタの後孔に、硬く太い男根が挿入される。  懸命にツカサからの好意を受け止めつつ、カナタはくぐもった声を漏らした。  場所は変わらず、ツカサの部屋。そして、ベッドの上。  いつもと違うことと言えば、些事にも思える小さなこと。 「あ、ぁ……っ! んっ、ふっ」  ──カナタが、枕に顔を押し付けていることだけだ。  ツカサはよく、カナタの顔が見えるような体勢で行為をしたがる。時には背後から、もしくはうつ伏せになったカナタを抱くこともあったが、基本的には向かい合ってセックスをしたいらしい。  愛しいカナタの顔をまじまじと観察できて、尚且つカナタの声や吐息をダイレクトに受け止められる。その方がツカサにとっては幸福で、なによりもかけがえのない時間になるからだ。  しかし、今日はそうもいかない。おそらく未だに、ウメとマスターはダイニングで積もる話をしているはずだ。……そうなれば、この選択は仕方のないことのようにも思えた。 「カナちゃんのナカ、気持ちいい……っ。だけど、カナちゃんの顔が枕で見えないのはヤッパリ悲しいな」 「んあ、っ!」 「ねぇ、カナちゃん。目だけ、枕の下から出してくれない? 俺、カナちゃんと見つめ合いたい。視線も絡まり合いたいよ」  ゆっくりと腰が引かれて、そのまま責め立てるように逸物が挿入される。  カナタはビクリと体を震わせながら、なんとか必死に目線をツカサへと送った。 「ウン、可愛い。瞳がトロンとしていて、エッチで最高。顔が半分隠れていてもこんなに可愛いなんて、カナちゃんは最高の恋人だよ。今日も明日も、心の底から愛しているよ」 「んんっ!」 「お尻、俺のをきゅぅって締め付けてきたね? どの言葉が嬉しかったのかな? 可愛い? それとも、愛してる? ……ふふっ、両方みたいだね」  優しく声をかけながら、ツカサはカナタの体を何度も揺する。  声を我慢しているカナタに合わせてなのか、ツカサの声もいつもより静かなものだった。……それが余計に、カナタの羞恥心を煽っているのだが。 「大好きだよ、カナちゃん。全部が愛しくて、キミ以外なにも欲しくない。カナちゃんが好き、大好き。……本当に、大好き」  こんなにも、愛の言葉を囁いてくれるなんて。少し前までのツカサでは、想像もできなかったことだ。  カナタとツカサでは、口にする【好き】の意味合いが異なる。それをカナタは正確に認識できていないが、それによってツカサが苦悩していたことは知っていた。  だからこそ、ツカサが呼吸をするように紡ぐ【好き】という言葉を、カナタはひとつとして取りこぼさない。大事に受け止めて、胸の中に閉じ込めておく。  その果てに、カナタの内側がどうなるのか。カナタはそんなことを想像していないし、ツカサもそのことを悪い意味合いでは危惧していない。むしろ、ツカサならばより先のことを想定していそうなくらいだ。 「カナちゃんの気持ちいいところ、いっぱい擦るね? ……声、大丈夫? 抑えられる?」 「ん……っ。抑え、ます……っ」 「カナちゃんはいい子だね。じゃあ、少し激しくするよ?」 「はっ、んん……っ!」  ギュッと、カナタはツカサの枕を強く抱き締める。声を吸収させ、外に漏らさないためだ。  宣言通りカナタの弱いところを重点的に狙い始めるツカサに、カナタは必死に声を押し殺しながら反応を返した。

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