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護身用アイテムを返されたツカサは、心配そうにカナタを見ている。
ここでこのまま放っておくと、ツカサはさらにエスカレートしてしまうかもしれない。カナタは慌てて、ギュッと拳を握って見せる。
「大丈夫ですよ! オレ、こう見えてもちゃんと男です! だから、女性に力で負けたりしませんよ!」
「おっ、言うねぇ~?」
敵意を向けられているというのに、ウメは楽しそうだ。しかも今しがた、催涙スプレーとスタンガンをチラつかせられたばかりだというのに……。
ウメは腕をまくり、挑発的な目でカナタのことを見つめた。
「なら、腕相撲でもしてみるかい? 言っておくけど、アタシはシグレより強いよ?」
「それはマスターに【バッドステータス魅了】が付いているからじゃないですか?」
「さすがリン! 賢い!」
「いぇ~いっ!」
「させるワケないでしょ。……二人共、早く後片付けしなよ」
ハイタッチを交わす二人を見て、ツカサの表情はまたしても硬化している。
そんなツカサの手を引き、カナタは笑みを向けた。
「オレは大丈夫ですよ。ズボンを脱がされたりしませんから」
「それは当然だけど、そもそも一緒にいさせたくない。マスターを含めて三人共、カナちゃんを視界に入れてほしくないし、カナちゃんの視界に入ってほしくもない」
「だけど、あの、変なことにはなりません! 三人とは良好な関係を築いているので、嫌なことはされないかと──」
「良好ならそれはそれでイヤだよ。俺以外と仲良くならないで」
どうやら、コミュニケーションを失敗したらしい。しかし今のは、完全にカナタのミスだ。
ご立腹な様子のツカサに内心でシュンとしつつ、カナタは顔を上げてツカサを見つめ続ける。そうすると目線を送ってくれるのだから、やはりツカサはどんなときでもカナタのことを一等大切にしているようだ。
無言の愛情に今度は胸を高鳴らせつつ、カナタは小さく笑みを浮かべた。
「厨房の掃除、手伝ってもいいですか?」
「……ウン、お願いしようかな。一緒にやろう?」
「はいっ」
今度は、コミュニケーションが成功したらしい。ツカサがカナタの手を引き、笑みを浮かべてくれたのだから。
……そんな二人の様子を見てウメとリンが「ヒューッ!」と冷やかしをしてきてはいるが、ツカサが無視をしているのでカナタもあえてなにも言わなかった。
* * *
夜になり、カナタの部屋の扉がノックされた。
この時間にカナタの部屋を訪れるのは、ツカサだけ。そう思ったカナタは笑みを浮かべて、扉を開けた。
しかし、そこに立っていたのは自分と同じくらいの背丈。
「──へぇ~っ? アンタ、ツカサにはそんな顔をするんだね!」
ウメだ。
まさか、ツカサ以外の来訪者だったとは。しかもそれがウメとは思っていなかった。予想外すぎる展開に、カナタの表情はすぐに驚きへと変わる。
「ウメさんっ? あのっ、ど、どうかしましたか?」
「ちょっと喋ろうかと思ってねぇ? 中に入ってもいいかい?」
「あっ、はいっ。なにもないですが、どうぞ」
ウメを招き入れると、笑顔が返された。
そのままウメは開かれた扉を閉じ、そのまま……。
──カチャリと、後ろ手で扉の鍵を閉めた。
「まっ、ツカサなら開けられるんだろうけどさ」
ウメが鍵を閉めたことに疑問を抱いていたカナタには、ウメのそんな呟きは聞こえなかったらしい。
なんの返事もせずに、カナタは疑問だけを抱きながらウメを招き入れたのだから。
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