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「ツカサはアタシにとって、息子みたいなものだ。だったらその嫁になるアンタだって、アタシにとって息子になるだろう?」  それは、ウメにとって飾り気のない本音だ。……どことなく、矛盾しているような言葉ではあるが。  けれど、不思議とカナタの頬は緩んでしまった。 「あははっ。……ありがとうございます、ウメさん」 「なんだい、変な子だね。今さっき説教を受けたばかりだっていうのにさ」 「説教なんて、そんな。ウメさんの言葉は、オレにとっては正しいことでしたから」 「あぁ~っ、カナタはいい子だねぇ~っ! なんであんな性格ひねくれ男に惚れちまったんだか!」 「ウメさんの息子さんだから、ですかね?」 「おっ、いいねぇっ! その回答は百点満点だよっ! 可愛いねぇカナタはっ!」  ウメの手が、カナタの頭へと伸ばされる。  ──扉がノック音を鳴らす、その瞬間まで。  ノックの音に、カナタは声を上げようとした。……しかし、先に口を開いたのはウメだ。 「入りな~っ!」  そうは言っても、カナタの部屋は鍵が閉められている。ノックの正体がツカサにしろマスターにしろ、入ることはできないはずだ。……そう、カナタは本気で思っていた。  だが、カナタにとって予想外のことが起きたのだ。  ──扉の鍵が開錠されるという、予想外のことが。  ……ちなみに、驚いているのはカナタだけだ。ウメはニコニコと楽しそうな笑みを浮かべて、すぐにでも『ヤッパリね!』と言いそうである。  よくよく考えると、何度鍵を閉めて就寝をしたとしても翌朝にはツカサがベッドの中にいた。これをカナタは『鍵を閉め忘れた』と解釈していたのだが、やはりツカサによる開錠だったと理解する。……と言うか、理解せざるを得ない状況だ。  扉が開かれると同時に、カナタは鍵を開けた張本人──ツカサに、声をかける。 「ツカサさん、どうしてオレの部屋の鍵を──」  すると、またしても予想外のことが起こった。 「──そんなこと、今はどうだっていいでしょ」  ──ツカサに、鋭く睨まれたのだ。  ツカサはベッドに座るカナタへ近寄り、その顎を強引に指で持ち上げた。 「なんで俺以外の奴を部屋に招き入れたの。オマケに、鍵まで閉めてさ。そんなことをされて俺がどう思うかって、ちょっとでも考えなかったの?」  その冷たい目には、覚えがある。マスターのピアノを褒めた時と、ツカサ以外の人に自分の好みを打ち明けた時だ。  この目と声色を向けられるときは、ツカサが本気でカナタに怒っているとき。それを、カナタは理解していた。……だからこそ、思わず言葉を失ってしまう。 「やめな、ツカサ。それに、カナタを責めるのはお門違いだよ。アタシが勝手に入って、勝手に鍵を閉めたんだ。カナタはなにも悪くないよ」  固まるカナタの代わりに、ウメが助太刀に入った。  しかしそれすらも気に食わないのか、ツカサはウメを振り返らずにカナタを見つめ続ける。 「ウメには訊いていない。俺は今、カナちゃんに訊いているんだよ」 「狭量だねぇ? そんなに器が小さかったら、いつかカナタに嫌われるよ?」  わざとらしいため息を吐きながら、ウメは独り言かのようにツカサを責めた。  ツカサは怖い顔をしたまま、カナタをジッと見つめる。 「俺はカナちゃんをこんなにも特別だと思っている。だから、カナちゃんは俺を嫌わないよ。嫌うはずがない」 「アンタの自信は無限湧きかい? その若さが羨ましいねぇ」  冷や汗を流しつつ焦るカナタは、理解せざるを得なかった。  ──『この状況はかなりマズい』と。

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