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 オムライスが乗るスプーンを見てから、ツカサは目を細めた。 「……積極的だね、カナちゃん? 地元に帰ると、カナちゃんはそうなっちゃうのかな?」 「地元の方が、こういうことをするのは恥ずかしいです……っ」 「それじゃあ、どうして?」  ツカサはカナタを見つめて、優しく問いかける。  その答えに、カナタが迷うことなく答えるとは欠片も思わずに……。 「──好きなものを好きな人と共有できて、少し……浮かれちゃっているのかもしれません」  またしてもツカサは、驚いた様子でカナタを見た。  ……しかし、すぐに。 「確かに、ものは考えようだね。カナちゃんの好きなものを正しく知られて、俺も嬉しい」  ツカサはカナタに返事をした後、カナタが持つスプーンからオムライスを一口食べたのだった。  咀嚼をした後、ツカサはニコリと微笑む。  もしかして、機嫌を直してくれたのか。カナタが笑みを浮かべた、その直後。 「でも、絶対に俺が作るオムライスの方がおいしいよ」 「拗ねないでくださいよ……」 「拗ねもするよ。カナちゃんの浮気者」 「オレはツカサさん一筋ですっ」  ツカサは相変わらずのツカサだった。  ……結局、カナタがこの店のオムライスとツカサが作ってくれるオムライスの違い、そして『ツカサが作ってくれるオムライスの方が大好き』といった趣旨の弁明をするまで、ツカサの機嫌は直らなかったとか。  * * *  昼食を終えた後、カナタとツカサは車に戻った。  これからいよいよ、カナタの実家へ向かう。……もう、後戻りはできない段階だ。 「カナちゃん、大丈夫?」 「……っ」  途端に険しい表情となったカナタを見て、ツカサは眉尻を下げた。 「ムリをするようなことでもないよ。俺は、誰の許可がなくたってカナちゃんが好きだから。その気持ちをわざわざ誰かに報告する必要、ないとも思う」 「……それでも、両親には伝えたいです。ツカサさんのことを、隠していたくない」 「だったら、俺はカナちゃんのそばにいるよ。カナちゃんが選ぶ道に、俺も続く。このままご実家に向かっても、向かわなくても……俺はカナちゃんのそばにいるし、その選択を尊重する。なにを選んでも、どう進んでも、絶対に後悔はさせないよ」  エンジンをかける前に、ツカサはカナタの手を握る。 「大丈夫だよ、カナちゃん。……『ピンチはチャンス』って言葉もあるでしょう? これは俺たちにとってのピンチだけど、チャンスでもあるんだよ」 「ツカサさん……っ」 「愛しているよ、カナちゃん」  優しい言葉と視線に、カナタの涙腺は緩みかけた。  しかし、ここで感動をして立ち止まっているわけにはいかない。カナタはツカサの手を強く握り返し、自分の意志をハッキリと伝えた。 「オレも、です。オレも、ツカサさんが大好きです」 「……じゃあ、決まりだね」 「はい。家までのルートを、案内します。だから……運転を、お願いします」 「ウン、了解っ。五体満足でご実家に帰省させてあげるっ」 「あっ、いえっ。そこまで重く受け止めなくても……っ」  繋いでいた手を離してから、ふと。 「……あっ! どうしようっ!」  カナタはあることを思い出した。  何事かと思い、ツカサはすぐに「どうかしたのっ?」と心配そうに訊ねる。  そんなツカサを振り返って、カナタはどこまでも申し訳なさそうな顔を向けた。 「オレ、お母さんに『晩ご飯はオムライス』って約束しちゃってたんでした……っ! ごめんなさい、ツカサさんっ! メニュー、被っちゃいました……っ」  至極申し訳なさそうに委縮するカナタを見て、ツカサはと言うと。 「あはっ。いいよ、全然大丈夫。気にしないでっ」  カナタの心に、少しでも余裕ができたのかと。……その変化を、嬉しく思ったのだった。

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