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 車を走らせること、十数分。  家に着いてからの予定を話し合いつつ、カナタたちは目的地へと車を走らせ……。 「──ここです。ここが、オレの家です」  遂に、二人はカナタの実家に到着した。  特段、特徴のある家というわけではない。シンプルな外装を見て、ツカサは車を停める。 「一軒家なんだね。凄くキレイ」 「お母さんが綺麗好きなので、定期的に掃除しているんです。……それか、オレが誰かを連れてくるって言ったから、気合いを入れたのかもしれません」 「なんだか歓迎されているみたいで嬉しいなぁ」  車の中から荷物を下ろしつつ、ツカサはカガミ家を見上げた。 「……こういうのが、普通の家族が暮らす家なのかな」  呟いてから、ツカサは小さく頭を横に振る。 「カナちゃん、荷物持った?」 「持ちました。トランクからクーラーボックスも出しましたし」 「ありがと。それじゃあ、行こうか」 「はいっ」  バッグを背負い、クーラーボックスを手に持ったカナタはすぐに、玄関へと向かった。  そのまま扉に手をかけると、どうやら鍵が開いているらしい。玄関扉を開けてから、カナタは声を張り上げた。 「ただいまーっ!」  すぐに、奥の部屋から母親が姿を現す。 「あら、おかえりなさい。思っていたより早かったわね」 「うん。荷物を置いてからちょっと散歩しようかなって。……あっ、これ。ウメさんから」 「まぁ、わざわざ? 後でお礼を伝えなくちゃ」  クーラーボックスを受け取った後、母親はすぐにカナタの後ろに立つツカサを見上げた。 「……あなたは確か、ホムラさんよね。お久し振りです。いつもカナタがお世話になっております」 「こんにちは。突然お邪魔してしまって、すみません」 「いえっ、そんな。……あら?」  ようやく、母親は現状の違和感に気付く。  カナタは確か、両親に紹介したい人がいると言って帰省したはず。しかし後ろにいるのは、彼女ではなくツカサ──男だ。  しかし母親は、カナタの言葉をめでたく解釈しすぎたのだろうと考えたに違いない。一瞬だけ眉を寄せたものの、すぐに感じのいい笑顔を浮かべたのだから。 「うち、客室なんてないわよ? カナタと同じ部屋でいいの?」 「うん、大丈夫。……ところで、お父さんは?」 「久し振りにカナタが帰ってくるからって、意気揚々とお酒を買いに出掛けちゃったわ。まったく、なにかと理由をつけていいお酒を飲もうとするんだから……」 「あははっ。お父さんらしいね」  カナタはツカサを振り返り、笑みを向ける。 「オレの部屋、案内します。荷物を置いて、近くを少し散歩しましょう」 「喜んでっ」  了承をした後、ツカサはカナタに続いて通路を歩く。  母親はカナタから受け取ったクーラーボックスを持ち、奥の部屋──リビングへと歩いて行った。 「カナちゃんのお義父様、お酒好きなんだね」 「そうなんですよ。毎日の晩酌が生き甲斐らしいです」 「ふぅん。でも、好きなものに正直だね」 「はい。……今ではそれが、少しカッコいいなって思います」 「お酒でも?」 「お酒でもです」  そう語るカナタは、笑顔だ。  ツカサはカナタが浮かべる笑顔を眺めながら、それ以上は特段なにを語るわけでもなく大人しい様子のまま、カナタの部屋へと向かった。

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