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カナタの部屋に案内されたツカサは、すぐに部屋の中をキョロキョロと物色し始める。
「ココが、カナちゃんの部屋かぁ。結構落ち着いているって言うか、男の子って感じの部屋だね」
「可愛い物は隠していますからね。……ココとか」
「あっ、ホントだ。引き出しの中は可愛いねっ」
学習机の引き出しを開け、カナタは照れくさそうに笑った。
見た目だけなら、この部屋は少年が使っていたものに見えるだろう。落ち着いた色合いでまとめられ、これといった特徴はない。
しかし、カナタはそんな部屋の中でも要所に好きなものを詰めていた。学習机の引き出しや、ベッドの下にある収納スペースが代表例だ。
カナタは開けた引き出しをもとに戻した後、ツカサを振り返る。
「それじゃあ、家の近くを案内しますね」
「うん、ありがとう。カナちゃんが過ごした日々の断片を垣間見ることができるなんて、贅沢なツアーだなぁ」
「そんな、大それたものでは……っ」
すぐに、カナタはツカサの装いについて訊ねた。
「でも、そのバッグを持ち歩くのは不便ですよね。オレが使っていた物で良ければ、なにか貸しましょうか?」
「カナちゃんは心配りができるステキな子だね。ますます惚れ直しちゃうよ」
「えっと、ありがとうございます……っ」
ツカサは大きなバッグを一度、床に置く。
「だけど、心配はご無用だよ。こうしてカナちゃんと散歩する可能性も視野に入れていた俺に、抜かりはないからね」
「……と、言いますと?」
まさか、と。すぐに、カナタは次に取るであろうツカサの行動に目星をつけた。
そして案の定、カナタの予測は的中してしまう。
「ジャンッ。お出かけ用のバッグだよっ」
ツカサの大きなバッグの中には、いったいどこまでの想定が詰め込まれているのか。
鞄の中から小さなバッグを取り出したツカサは、すぐにそのバッグを装着する。これで完全に外出モードだ。
「……オレの恋人って、本当に……なんて言うか、凄い人だなぁと。そう、再認識しました」
「そう? 突然カナちゃんに褒められると、なんだか照れちゃうよ……」
カナタがツカサへ向けた感情が、果たして純粋な【賛辞】なのか。それは、カナタ自身にもよく分からない。
「先ずはどこを案内してもらおうかなぁ。カナちゃんが幼少期に遊んでいた公園も捨てがたいけど、ヤッパリ最初はオーソドックスに母校から見るべきかなぁ? 実際にカナちゃんが歩いた通学路を通るっていうのは、なかなか緊張しちゃうね。……いや、待てよ。順を追うのなら先ずは保育園か、もしくは幼稚園か……。あぁ、でもっ。それなら俺はカナちゃんが産まれた病院から案内されたいよ!」
ただ分かるのは、ツカサが妙にはしゃいでいるということ。少し前までオムライスに対して拗ねていた男と同一人物には、思えない。
しかし美丈夫の微笑みを見ると、恋人だということを抜いても『格好いい』と思ってしまう。やはり、いつ見てもツカサの容姿は整っているのだ。
「……あの、ツカサさん」
「なぁに──んっ」
背伸びをしたカナタが、ツカサの唇にキスを落とす。
それからカナタはすぐにツカサへ抱き着き、額をグリグリとツカサに押し付けた。
「なになに、どうしちゃったの?」
「ツカサさんって、ヤッパリ凄くカッコいいなって」
「用意周到な男にそこまでときめいちゃうなんて、カナちゃんのツボってよく分からないね? でも、嬉しいよっ。ありがとう、カナちゃんっ」
「いえ、そこがツボだったわけではないのですが……」
いつもの鋭さはどこへやら。ツカサはカナタのときめきポイントを完全に誤解しつつ、贈られた賛辞にハグを返すと同時に、お礼を述べた。
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