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 長めのドライブを終えて、夕方。 「ただいま帰りました」  カナタは荷物を一度部屋に置いた後、裏口からマスターたちがいる喫茶店に向かった。  先にカナタたちの帰宅に気付いたのは、厨房でせっせと料理をしているマスターだ。 「おぉ、戻ったか! なら、丁度いい! ツカサ、注文があるからワシの代わりに──」 「さてと。挨拶も済んだし、俺たちは休みを満喫しようか、カナちゃんっ」 「薄情者がッ!」  マスターはギャンと吠えたが、カナタはツカサを窘めない。なぜなら決して、店が混雑をしているわけではないからだ。  マスターなりのジョークだと理解している二人は、理由の違う笑みを互いに向け合う。 「オレ、お腹空いちゃいました。……あっ、そうだ! ツカサさん、今日はお客さんとしてここでご飯を食べませんか?」 「えぇ~っ、ヤダよ~っ。なにが悲しくてマスターの手料理にお金を払わないといけないの? だったら、今すぐ仕事着に着替えて俺が料理をするよ? リクエストはある?」 「でも、それだと休みの意味がないですよ?」 「俺はカナちゃんのためになにかをするなら、いつでもなんでもオッケーだよ。むしろ、どんなときでも頼ってほしいなぁ? だから、マスターなんかの手料理じゃなくて俺の手料理を選んでよ? ねっ、いいでしょっ?」 「──二人共出て行けッ!」 「──えぇっ! オレもですかっ!」  まさか帰宅後すぐに、そんな言葉が飛んでくるとは。家ではないにしても、なかなかに強烈な挨拶だ。  三人で談笑……談笑? をしていると、リンが注文票を持って厨房にやって来た。 「新しい注文で~──って、あっ! カナタ君、おかえり~っ!」 「ただいま、リン君」 「それと、ホムラさんも! ……って、あっ、あれぇ~っ? 怖い顔だっ、なんでぇ~っ?」 「馴れ馴れしくカナちゃんに声をかけないでよ。ホラ、サッサと仕事に戻る」 「ひぇ~っ! オフのホムラさんも相変わらず刺々しいっ! でも、突き刺さるヤキモチは正直ご褒美でっす!」  なぜか、リンは上機嫌だ。八重歯を覗かせながら、敬礼をしつつホールに戻った。 「ここにいてもできることはないし、家に戻ろうか。お腹が空いちゃったなら、晩ご飯の用意をするよ」 「えっと、どうしましょう。……あっ、いえっ。かっ、帰りましょうかっ」  キッと鋭くマスターに睨まれ、カナタは委縮しつつ帰宅を選択。曖昧すぎる愛想笑いを浮かべながら、カナタはツカサを連れて家に戻った。  するとなぜか、そのタイミングで玄関扉が開いたのだ。 「んっ? あぁ、帰っていたのかい。おかえり、二人共」  どうやらウメが入れ違いで、店から家に戻っていたらしい。 「ただいまです、ウメさん」 「なんだ、生きてたんだ」 「なんて対照的な挨拶だい。思わず喜色満面になっちまうよ」  やはり、二人の──ツカサの態度は険悪一色だ。カナタは慌てて、ツカサとウメを引き離そうとする。……さすがに、誰が通るかも分からない外でこの二人のやり取りを披露したくないからだ。  だがその前に、カナタはウメを振り返った。 「あっ、そうでしたっ! ウメさん、あのっ。お母さんから、ウメさんにクーラーボックスを返してほしいって言われました。中にお返しも入っていますので、後で確認してください」  足を止めたウメはすぐに、カナタと同様に振り返る。 「あぁ、ありがとね。……ちなみに確認だけど、カナタはカガミたち──親に渡す前に、あの中を見たかい?」 「いえ、見ていませんけど。……そう言えば、なにが入っていたんですか?」  やけに軽かった、クーラーボックス。昨日の重量を思い出しながら、カナタは根本的すぎる疑問を口にした。  そんなカナタに返された、ウメの回答はと言うと……。 「──アンタたちの婚姻届けさっ!」 「──なぜクーラーボックスにっ!」  誰も予想していなかった方法にて、カナタとツカサの結婚は後押しされていたのだった。

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