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 帰宅後、カナタはすぐにクーラーボックスを開けた。  そしてその中身を見て、カナタは絶句しかけてしまう。 「本当に、婚姻届けが入ってる……」  ウメとシグレだけではなく、カナタの両親。四人分の必要記載が終えてある婚姻届けを見て、カナタは今度こそ絶句する。  ……ちなみに、ウメ曰く。 『意外性があった方が、カナタにバレないかなとか思ってね! あぁでも、安心しておくれ。きちんと手土産として商品券も渡したからさっ』  ……ということらしい。カナタとしては、決して手土産の心配はしていなかったのだが……。  ちなみにツカサは、行きの段階で婚姻届けの存在には気付いていた。本心を告げて良いのならば、正直お節介で迷惑で不愉快極まりない手法だ。  ……だが、そこがウメらしいと言ってしまえば、そこに尽きてしまうだけで。 「とりあえず、えっと。婚姻届け、取り出しましょうか」  顔をポポッと赤らめつつ、カナタは婚姻届けを取り出す。  それからツカサを振り返り、ソワソワと落ち着きなく視線を彷徨わせる。 「えっと、そのっ。……なっ、なんだか、照れちゃいますね……っ」 「俺たちの結婚なのに秘密裏に動いていたかと思うと、俺は腹立たしさが湧いてくるけどね。モチロン、カナちゃんのご両親にじゃないよ? ウメが八割、嫁の愚行を知らなかったマスターが五割ね」 「あの、上限を超えちゃっています……」 「瞬時に算数をしちゃうカナちゃんは、きっといい奥さんになるね。スーパーで買い物をするときは是非とも旦那である俺を誘ってね?」 「あ、はは……」  婚姻届けを回収した後、カナタは一度部屋に戻ろうとした。当然、その後ろをツカサがついて歩く。 「晩ご飯の準備、しちゃいましょうか? 少し早いかもしれないですけど、オレも手伝い……ま、す?」  自室に戻ると、なぜかツカサが後ろ手で扉を閉めた。ついでに、鍵も閉めている。  確かツカサは、夕食の準備をすると言っていたはず。鍵を閉める理由が思い当たらない。  カナタは机の上に婚姻届けを置いた後、不審な動きをしているツカサを振り返った。 「ツカサさん? 鍵を閉めちゃうと、部屋から出られませんよ?」 「ウン、そうだね。だって、部屋から出したくないんだもん」 「それだと、晩ご飯の準備が──わわっ!」  即座に、ツカサはカナタを抱き上げる。  そのまますぐにカナタをベッドに下ろし、ツカサは驚くカナタにキスをした。  さすがに、これがどういうことを意味しているのかは分かる。カナタは身をよじりながら、ツカサを見上げた。 「あのっ、ツカサさんっ? 帰ってきていきなり、こんな……っ」 「もうダメ。一秒もガマンできない。……カナちゃんと、繋がりたい」 「つっ、なが……っ。……ツカサ、さん……っ」  突然のことに、驚いてはいる。……しかし、それが【拒絶】とイコールではないと。そう、カナタは分かっていた。 「ツカサさんと、オレも……シたい、です……っ」  耳まで赤くなりながらも、カナタはツカサに気持ちを伝える。  するとなぜか、ツカサが眉を寄せたではないか。 「ツカサさん、ツカサさん……。敬語と敬称、か……」 「えっ? ツカサさん? どうか、しましたか?」 「……よしっ!」  小難しそうな顔をしていたかと思いきや、ツカサがニコリと笑みを浮かべる。  そのまま、ツカサは弾むような声で提案をしたのだ。 「──カナちゃんっ! これから少しずつ敬語を抜いてみよっか!」

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