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11 : 28 微*

 見つめ合いながら、カナタが口にした言葉。  それを聴いたツカサによって、ギッ、と。ベッドが、僅かに軋む。 「……今の敬語は、わざと? それとも、まだ罰ゲームは始まっていないってこと?」  ツカサの表情が、笑みから真剣なものに変わる。  その変化が【怒り】からではないと、カナタは分かっていた。 「どっちだと、思いますか?」  だからこそ、カナタはジッとツカサを見つめる。……まるで、挑発するかのように。  またしても敬語を遣ったカナタを見つめながら、ツカサはカナタの頬を優しく撫でた。 「ちょっと難しくて、分からないよ。でも、キスはしたくなった。……だから、罰ゲーム関係なくするね?」 「んっ」  顔が近付き、触れる。  もう何度も重ねた唇だというのに、いつも離れると『寂しい』と思ってしまうのは、なぜなのか。カナタは無意識のうちにツカサの服を握り、大きな瞳をツカサに向ける。  一度、カナタは自らツカサにキスをした。そしてそのまま、唇を寄せて囁く。 「──抱いて、ツカサ君……っ」  初めての強請り方に、ツカサは一瞬だけ言葉を失くした。  しかし、すぐにいつもの笑みを浮かべる。 「いいよ。……俺も、カナちゃんを抱きたい」  そう言い、ツカサは上着を脱ぐ。 「今日のカナちゃんも、ホントに可愛い。どうしてカナちゃんは、毎日毎日俺を惚れ直させちゃうのかな。魔性すぎて、ちょっと心配」 「なにか、悪いこと……しちゃって、ますか?」 「悪くはないよ。ただ、他の奴から言い寄られたらイヤだなぁって気持ち」 「そんなこと、あるわけないですよ」 「でもなぁ。カナちゃん、可愛いからなぁ……」  服を脱ぎ、服を脱がす。ツカサによって行為の準備を進められながら、カナタは頬を膨らませた。 「オレよりも、ツカサさんの方が心配です。よく、女のお客さんからジーッと見つめられているじゃないですか。それに、窓側に置いてあるピアノを弾くときも……いっぱい、視線を集めています」 「使えるものは使った方がいいでしょ? 俺があの店にいる理由は【客寄せパンダ】だからね。……でも、カナちゃんがイヤならもう弾かないよ?」 「……ピアノを弾くツカサさんも好きなので、見られなくなるのは嫌です」 「ワガママなカナちゃんも可愛いっ!」  膝を抱えて、ツカサは笑う。 「なんだってするし、なんだって叶えるよ。俺はカナちゃんが一番だから、カナちゃんの望むことが俺の望み。……だと、思う。うん」 「どうして目を逸らすんですか?」 「カナちゃんからの別れ話だけは受け止められないからかな……」 「しないですよっ!」  手早く裸にされたカナタは、恨めしそうにツカサを睨む。 「こんな恥ずかしいこと、ツカサさんとしかできません。……ツカサさんとしか……したく、ないですし……っ」  ゴニョゴニョと言い淀むカナタを見て、ツカサはまたしても笑みをこぼす。 「そっか。……嬉しいなぁ」  自身の指を舐めて、ツカサは目を細めた。 「俺も、こうして『抱きたい』と思うのはカナちゃんだけ。結婚したいのも、生涯添い遂げたいのも……全部、俺の特別はカナちゃんだけだよ」  濡れた指が、カナタの後孔に触れた時。  カナタは身を震わせながら、小さな声で呟いた。  ──「同じで、嬉しい」と。

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