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 ベッドが軋む音に、カナタは慣れない。  何度恥ずかしいところを暴かれて、何度はしたない声を漏らしても……カナタはツカサとの行為に、慣れることはできなかった。 「あっ、ん、っ! 気持ち、いぃ……っ。ツカサさん、そこ──」 「あれ? 名前の呼び方が『さん』になってるよ?」 「ん、っ!」 「もう一回。今度は、ちゃんと『ツカサ君』って呼んで、おねだりして?」  突いてほしいところを、わざと外す。ツカサは緩やかなリズムでカナタの体を揺すりながら、笑みを浮かべた。  綺麗な笑顔なのに、どことなく意地悪だ。イタズラ好きな子供のように笑うツカサを見て、カナタは一瞬だけ悲しそうに眉尻を下げる。 「可愛いけど、ダメ。俺、カナちゃんに『ツカサ君』って呼ばれたいから。……ワガママで、ごめんね?」  ツカサからのおねだりを叶えない限り、カナタのおねだりも叶わない。何度も会話を重ねてきたからこそ分かる、ツカサの強情さだ。  こうして求められて嫌な気はしないが、自分から進んで呼ぶのとは違い、気恥ずかしい。  それでも、自分のおねだりは叶えたい。カナタは唇を震わせながら、ツカサのおねだりを叶えることにした。 「うぅ……っ。……ツカサ、くん……っ。奥、もっと突いて……っ?」 「ン、了解。カナちゃんはホント、ココをこうしてグリグリされるの、好きだよね?」 「ひぅ、んっ!」  ぱちゅ、と。深いところに男根が挿入され、カナタは体を震わせる。 「あっ、気持ちっ、い……っ! ツカサ君っ、そこ、もっとぉ……っ」 「『君』呼びのカナちゃん、凄く可愛い……っ。いつもより興奮しちゃうかも」 「んっ、あっ! そこっ、んん、ッ!」  徐々に激しさを増す動きに、カナタの声は断続的なものとなっていく。  愛しい男に体を揺さ振られ、劣情を真っ直ぐと突き挿れられる。この行為に慣れはしなくても、カナタの考え方は確かに変わっていて……。 「ツカサ君、好き……っ。大好き、です……っ」 「ありがとう。……ふふっ。気持ち良すぎて涙を流すカナちゃんも、可愛くて大好きっ」 「あっ、ふぁ……ッ」  思わず、カナタはその両脚をツカサの背に回してしまう。当然、無意識だ。 「気持ちいいっ、あっ! そこっ、好きです、好き……っ!」  マスターたちが仕事をしているのに、自分は恋人と淫らな行為に耽っていていいのか。……そんな理性は、序盤のうちに消え失せていた。  ただ、酷く幸福で。ただただ、満たされているのだから……。 「ン、そろそろ出そう。……カナちゃんも、イきそう?」 「イッ、ちゃ……ッ。もっ、イきそう、です……ッ」 「じゃあ、一緒だね。……奥に出すね」  さらに硬度が増し脈打つ男根に、ツカサの限界が近いと言外にも訴えられた気がした。  カナタはツカサの体に腕を回し、ツカサもカナタを強く抱き締める。 「やっ、ぁあ、あ、ッ!」  カナタが果てると、ほぼ同時。ツカサの気持ちが、カナタの内側を熱く満たしていく。  ……絶頂後特有の倦怠感に包まれつつ、カナタはぼんやりと考えてしまう。  今後もツカサと生きていく中で、数々の試練はあるのだろう。カナタにとって大きな試練を超えた今を、未来のカナタは懐かしむのかもしれない。  それでも、カナタは構わなかった。この一歩がなければ、カナタはツカサとの未来に進めなかったのだから。 「大好きです、ツカサさん……っ。世界で一番、ツカサさんが好き。愛しています……っ」  互いの体温を直接感じ合いながら、カナタはツカサの手を握る。  普段は冷えている手が、熱を帯びていた。その感触に目を細めて、カナタは笑みをこぼす。 「──ツカサ君、大好きっ」  口角を上げるカナタを見つめて、ツカサも微笑みを浮かべる。 「俺もだよ、カナちゃん。愛おしくて、大切で……なによりも誰よりも、一番大好き」  この時のカナタは、充足感と達成感に満ちていた。恋人の気持ちを正しく理解しているツカサにも、それはありありと伝わっている。  ……だからこそ、ツカサは頭の片隅で考えるのだ。  ──自分も、この子のように前へ進まなくては。……と。 「……あのね、カナちゃん。お願いが、あるんだ」  手を握り、ツカサは微笑む。  そのまま……ツカサは笑みを崩さず、ハッキリと告げたのだった。 「──俺の母親にも、カナちゃんを紹介させてくれないかな」 11章【そんなに寄り添わないで】 了

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