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 ──情けない。  カナタは鳴ってしまった腹の音に対して顔を赤くしながらも、だんまりを貫く。 「ホラ、カナちゃん。我慢は良くないよ、ご飯にしよう?」 「いっ、嫌ですっ。今のツカサさんは、大好きですけど嫌ですっ」 「拗ねるカナちゃんも可愛いけど、空腹なのは見過ごせないよ。だから、ねっ? 俺と一緒に晩ご飯、食べよう?」 「だから今は──……えっ? 一緒、にっ?」  思わず、カナタはツカサを振り返った。  困ったように立ち尽くしているツカサが持つトレイには、なぜか【二人分】の食事が載せられているのだ。 「もしかして、ツカサさんも食べてないんですかっ?」 「うん。俺はなんでも、カナちゃんと一緒に食べたいから」 「……っ」  クゥンと鳴きそうなほど、今のツカサは子犬じみている。ありもしないはずの犬耳と尻尾が、ペタリと悲しくなるくらい垂れているのだ。 「俺が怒らせちゃったなら謝るよ。だから、話してくれないかな? 俺、カナちゃんに冷たくされると悲しいよ……」  言葉通り、ツカサは今にも泣き出しそうに見える。とても年上には見えないが……泣きそうな顔も、年上ということも。どちらも、事実だ。 「ごめんね、カナちゃん……」  シュンと落ち込む、愛しい彼氏。またしても、カナタの良心がズキズキと痛み始めた。  カナタは起き上がり、モグラのぬいぐるみをベッドの上に置く。それから、ツカサに向けていた顔をプイッと背ける。 「かっ、可哀想だから、一緒に食べてあげますっ。でも、ツカサさんを赦したわけじゃないですからねっ! 勘違いしちゃ嫌ですよっ!」 「カナちゃん……っ! いつもは俺に甘デレなカナちゃんも愛おしいけど、ツンデレさんなところも可愛いね。新たな一面を知られて、思わず浮かれちゃうよ……っ」 「──ツカサ君っ! 反省っ!」 「──まさかのここで『ツカサ君』呼びっ!」  ベッドから降りたカナタは、小さなテーブルを部屋の真ん中に用意する。  その上に食器を並べるツカサは、手を動かしながらも眉尻を下げた。 「だけど『反省』って言われても、ピンとこないよ。俺はどうして、大好きなカナちゃんを怒らせちゃったの?」  それは、ツカサ視点からすると当然の言葉だ。  カナタは理由を説明しようと、口を開きかける。……だが、どう伝えたら子供っぽく思われなく、且つそこそこ平和的に伝わるのか。 「ご飯を食べたら、お話します。だから、ちょっと待ってください」 「それは『ツカサさんを傷つけない言い回しを考えるので、少し時間をください』って意味? 怒っていても俺のことを想ってくれるなんて、カナちゃんは優しくてステキな男の子だね。ますます好きになっちゃうよ……っ」 「──ツカサ君っ! お口チャックっ!」 「──これからご飯を食べるのにっ?」  どうしたらいいのかと戸惑いながらも、ツカサはそれ以上なにも言わない。どうやら臨機応変に【お口チャック】を遂行するらしい。  食事を始めて、数秒後。ツカサはチラチラと、正面に座るカナタを何度も覗き見ている。  その視線に気付いたカナタは、食事を続けながら言葉を投げた。 「隣に座るのは駄目です」 「っ!」 「触るのもまだ禁止です」 「っ!」 「……でも、ご飯はとってもおいしいです。いつも、ありがとうございます……」 「っ!」  ガガンと連続でショックを受けた後に、最後のお礼を受けてツカサは柔らかい笑みを浮かべる。  言葉がなくても、意外と分かるものだ。カナタはツカサに対する理解度がいつの間にか猛烈に高まっていたのだと、妙な満足感を得た。  

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